Research Results 研究成果
九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、西山正章助教(現 金沢大学・教授)、武藤義治研究員、諸石寿朗研究員(現 熊本大学・准教授)らの研究グループは、肝臓がん患者のがん組織で、FBXL5というたんぱく質が減少していると生存率が低下してしまうことに着目し、同様の状態をマウスで再現したところ、肝臓に鉄がたまって肝臓がんの発がんが促進されることを見出しました。研究グループはこのマウスを用いて肝臓の過剰な鉄が発がんを促進するメカニズムを解明し、将来の治療応用に向けた基盤を確立しました。
本邦における肝臓がんの主な原因である慢性ウイルス性肝炎などの慢性の肝臓病において、肝臓に鉄がたまることが肝臓がんの発症を増加させたり、生存率を低下させたりする現象が知られています。しかし鉄が肝臓にたまる具体的なメカニズムや、そこから発がんに至る機序は謎でした。本研究グループは、以前にFBXL5が体内の鉄量を制御することを世界にさきがけて発見し、その研究をリードしてきました。このたび、肝臓がんの患者で、肝臓のFBXL5の量が減少していると生存率が低下することと、FBXL5が欠失したマウス肝臓ではIRP2というたんぱく質が蓄積し、その結果、鉄がたまって強力な酸化ストレスを生じ、発がんが促進することを発見しました。
これらの結果は、肝臓のIRP2を抑制することにより過剰な鉄を減らすことで肝臓がんが予防、治療できる可能性を示すものです。本研究成果は、2019年3月15 日(金)に米国科学雑誌「Journal of Experimental Medicine」で公開されました。
FBXL5の低下により鉄が過剰となり肝臓がんを促進する
マウスの肝臓でFBXL5が機能しないと鉄がたまって発がんを促進することが分かりました。また肝臓がんの患者ではFBXL5が減少していることが悪化につながることが判明しました。これらの知見から、鉄に着目した肝臓がんの新たな予防・治療法開発が期待されます。