Research Results 研究成果

中枢神経外傷後の自己修復メカニズムを新たに発見 ~脳や脊髄の再生医療に画期的成果~

2019.05.16
研究成果Life & Health

 九州大学生体防御医学研究所の岡田誠司教授と総合せき損センター小早川和医師らの研究グループは、哺乳類の脳や脊髄などの中枢神経にも自己修復能力がある事に着目し、脊髄に浸潤する炎症細胞の遊走能力が、損傷された脊髄の自己修復に重要であることを明らかにしました。
 脳梗塞や脊髄損傷後には麻痺などの重い後遺症が残る事がありますが、それは脳や脊髄などの中枢神経に再生する機能が備わっていないからだと信じられてきました。しかし近年、岡田教授らは脊髄内のアストロサイトという細胞が損傷部へ遊走する事で、損傷した脊髄にも自己修復が起きるという重要な知見を見出していました。
 今回岡田教授らは、RNAシークエンスという手法を用いて機能回復する時期の脊髄の遺伝子の種類と量を全て調べ上げ、IRF8という遺伝子が回復期に顕著に増加していることを発見しました。このIRF8は損傷した脊髄に浸潤したマクロファージが損傷の中心部に能動的に遊走して集まる現象を引き起こし、マクロファージによる炎症や二次的な神経の損傷を抑え、神経組織の自己修復と運動機能回復に重要な役割を持つ事を発見しました。また、損傷脊髄内には補体C5aの濃度勾配が形成されることや、補体C5aの濃度勾配に応じた細胞の遊走に必要なプリン作動性受容体の発現をIRF8が調節することで、マクロファージを損傷中心部へ導いていることを明らかにしました。さらに、マクロファージのIRF8の働きを増強させると、マクロファージがより早く遊走して小さな領域内に集まり、神経の損傷が抑えられ、麻痺の回復が促されることを発見しました。本成果によって、これまで見落とされてきた中枢神経の自己修復機構を明らかにし、その機能を増強する事で脳や脊髄の損傷の治療につながると期待されます。本研究成果は、日本学術振興会科学研究費(JP16H05450、14J01375)の支援を受け、2019年5月15日(水)14時(米国東部夏時間)に米国科学雑誌『Science Advances』オンライン版で発表されました。

(参考図)マクロファージの脊髄内遊走を介した組織修復メカニズム:損傷脊髄に浸潤したマクロファージのIRF8は、TLR4受容体を介して活性化し、P2X/Y受容体の発現を促すと考えられました。補体C5aに反応して分泌されたATPやADPがP2X/Y受容体と反応してマクロファージを損傷中心部へと遊走させます。マクロファージには近接する神経への障害作用があるため、IRF8が欠損してマクロファージの遊走が障害されて広範囲に散在したままになると、組織障害と機能回復が悪化しました。

研究者からひとこと

 今回の研究で、マクロファージの遊走は、組織修復を促すアストロサイトの遊走や、神経再生を阻害するグリア瘢痕形成にも影響する事が判明しました。マクロファージの遊走を促進する事で、アストロサイトの遊走を促し、グリア瘢痕形成を抑制して組織修復と機能回復を促進する事が可能になるのではないかと考えられます。

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