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Research Results 研究成果
九州大学大学院理学研究院の木下祥尚助教と松森信明教授らの研究グループは、細胞膜に存在する脂質ラフトと呼ばれる固い膜領域が局所麻酔薬によって破壊されることを見出し(図1左)、局所麻酔薬の作用発現に脂質ラフトの破壊が関与しているとの新たな仮説を提唱しました。
局所麻酔薬や全身麻酔薬の作用機構は現在でも十分解明されておらず、多方面から研究が行われています。局所麻酔薬はイオンチャネル(生体膜を貫通するタンパク質の中で、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどの特定のイオンを透過させる役割を持つタンパク質)に作用することで神経伝達をブロックし、麻酔作用を発現すると考えられてきました。一方で、局所麻酔に関与するイオンチャネルは脂質ラフトに存在し機能することが報告されています。そこで、我々は、脂質ラフトを模した人工脂質膜に対し代表的な局所麻酔薬であるジブカインやテトラカイン、リドカインを外部から添加しました。その結果、ジブカインやテトラカインは脂質ラフトに相当する領域を効率的に破壊するのに対し、リドカインの影響は小さいことがわかりました(図1右)。興味深いことに、局所麻酔薬のラフト破壊は麻酔作用の強度と相関していました。またX線の実験により、ジブカインやテトラカインは膜の奥深くに侵入することで固い脂質ラフトを効率的に乱すのに対し、リドカインは膜表面付近に存在するため脂質ラフトに及ぼす影響が小さいことがわかりました。以上の結果、イオンチャネルが機能する場である脂質ラフトが局所麻酔薬によって破壊されるため、イオンチャネルの活性が抑制され、麻酔作用が発現するとの新たな仮説を提案しました。この成果は、新たな局所麻酔薬の開発の指針になると期待されます。
本研究は科研費(JP15H03121、JP16H00773、JP17K15107)などの支援を受けて実施しました。本成果は令和元年6月15日(土)(日本時間)に学術誌Biochimica et Biophysica Acta −General Subjectsのオンライン版に掲載されました。
図1. (左)局所麻酔薬によるラフト破壊の模式図。(右)ラフト/非ラフト様相分離膜に対する局所麻酔薬の影響。相分離膜にジブカインやテトラカインを添加すると、ラフトが破壊され、膜全体が均一になる。リドカインを加えても相分離は解消しない。
なぜ、ジブカインは効率的にラフトを阻害するのか?当初、ジブカインのラフトへの結合量が多いからではないかと考えていました。しかし実際に測定してみると、ジブカインは3種類の麻酔薬の中で膜に最も結合量が少ないことがわかりました。このように、実験では予想外の結果が得られることがよくあり、そのたびに新たな仮説をたてて実験を進めていくところが興味深いです。(木下)