Research Results 研究成果

環境ホルモンから新しい乳癌治療薬を目指す 〜三環系ビスフェノールに女性ホルモン活性の抑制効果を発見〜

2019.07.29
研究成果Life & HealthPhysics & Chemistry

 九州大学大学院理学研究院の松島綾美准教授の研究グループは、内分泌撹乱物質として知られるビスフェノールAに類似した三環系ビスフェノールが、女性ホルモン・エストロゲンの活性を抑制することを初めて発見しました。 
 内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモンは、主に女性ホルモン・エストロゲンの受容体に結合してホルモンの働きを撹乱すると考えられています。プラスチック原料であるビスフェノールAも、エストロゲン受容体に弱く結合することが知られていました。このビスフェノールAに類似の化合物を研究するなかで、ベンゼン環を3つ持つ三環系ビスフェノールが、ビスフェノールAよりもずっと強くエストロゲン受容体に結合することを見出しました。さらに、三環系ビスフェノールが、エストロゲンによる転写活性を抑制することを発見しました。これは、三環系ビスフェノールという環境ホルモン由来の化学構造を持つ化合物が、乳癌など女性ホルモン依存性癌の治療薬に繋がることを示唆するこれまでにない知見です。さらに、エストロゲン受容体と三環系ビスフェノールが結合した立体構造をコンピュータでシミュレーションし、この構造要因を解明するとともに、核内受容体にビスフェノール類似化合物が結合した状態のab initio計算を、これまで主に無機化合物などで用いられてきたDV-Xα法という計算方法を初めてタンパク質に適応して実施しました。DV-Xα法は、米国ノースウェスタン大学D.E.Ellis教授らと京都大学工学部・足立裕彦教授が開発し、改良されてきた計算方法のひとつです。今後、日本発の手法がタンパク質の分子軌道計算を大きく発展させることが期待されます。本研究は科研費(JP17H01881、JP18K19147)などの支援を受けて実施しました。
 本成果は、令和元年7月9日(火)(日本時間)に英国科学雑誌Scientific Reportsにオンライン掲載されました。

(参考図:上)
ビスフェノールAと三環系ビスフェノールの構造例
(参考図:下)
三環系ビスフェノールによるエストロゲン受容体の阻害モデル。受容体のアミノ酸側鎖(H524:薄緑色の部分)に衝突すると考えられました。

研究者からひとこと

私たちは大学の理学部で基礎研究をしています。基礎研究は、世の中でどのように役立つか、わかりにくいことも多いです。しかし、このような基礎研究が、将来、きっと有用な薬の開発などに繋がると信じて頑張っています。

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