Research Results 研究成果

自然免疫の活性化による骨肉腫の進行抑制  ~腫瘍免疫に基づいた、骨肉腫に対する新規治療法の開発を目指して~

2020.02.27
研究成果Life & Health

 骨肉腫は主に若年者の骨に発生するがんで肺に転移しやすく、肺に転移した場合の治療法は限られているため、新しい治療法の開発が求められています。近年免疫を強化して、がんの進行を抑制する治療法(腫瘍免疫療法)が注目を浴びています。腫瘍免疫療法は、いくつかのがんに対しては非常に有効ですが、骨肉腫に対する有効性は未だ確認されておらず、更なる研究が必要とされています。
 TLR4(トールライクレセプター4)とは誰もが持っている受容体で、体に細菌が侵入した際などに免疫を活性化して細菌を排除する、「自然免疫」と呼ばれる重要なメカニズムの鍵となる分子の一つです。九州大学大学院医学研究院の松本嘉寛准教授および医学系学府博士課程4年の八尋健一郎大学院生の研究グループは、このTLR4に着目して研究を行い、TLR4を刺激、自然免疫を活性化することでCD8⁺T細胞が骨肉腫の進行を抑制することを世界に先駆けて報告しました。
 TLR4を刺激するLPS(リポ多糖)をマウスに投与したところ、正常な(野生型)マウスではTLR4刺激に伴い骨肉腫の増殖と肺転移が抑制され、結果的に生存期間が延長されました。しかし、TLR4の働きが遺伝的に失われているマウスではその効果は得られませんでした。
野生型マウスではTLR4刺激により、腫瘍に対するCD8⁺T細胞の活発な活動が認められました。またマウスからCD8⁺T細胞を除去してしまうと、TLR4刺激による骨肉腫の進行抑制効果がなくなってしまったことから、TLR4の刺激、即ち自然免疫活性化による骨肉腫の進行抑制には、CD8⁺T細胞が重要な役割を果たしていることがわかりました。さらに実際にヒトの骨肉腫でも、CD8⁺T細胞の活動が活発な患者さんは、そうでない患者さんと比べて生存期間がより長いことを確認しました。
 これらの研究結果は、骨肉腫に対しても腫瘍免疫治療、特に自然免疫の活性化が有効である可能性を示しており、骨肉腫における新規治療法の開発に繋がることが期待されます。
 本研究は2020年2月12日(水)(日本時間)に「Cancer Immunology, Immunotherapy誌」でオンライン公開されました。

図1:TLR4刺激による腫瘍縮小の模式図。

図2(左):肺組織のサンプル。赤矢印は転移した腫瘍。
図2(右):TLR4刺激によって肺転移率が減少。

研究者からひとこと

骨肉腫は稀な腫瘍ですが、今なお多くの子供達を苦しめている非常に厄介な腫瘍です。この研究が骨肉腫に対する新しい治療法へと繋がり、1人でも多くの骨肉腫患者さんを助けられるよう、引き続き研究を続けていきたいと思います。(八尋)

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