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Research Results 研究成果
九州大学大学院医学研究院の松元幸一郎准教授、九州大学病院の神尾敬子医員、藤田明孝医員らの研究グループは、PI3キナーゼδ(デルタ)阻害剤が気道や肺からウイルスを排除しやすくする仕組みを明らかにし、ウイルスの増殖を抑制することを示しました。気道ウイルス感染症は気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患 の発作を誘発し、さらなる病気の進行やQOLの悪化を招きますが、手指衛生やマスク装着による予防以外の手立ては限られています。
気道にウイルスが感染し増殖する際に、2本鎖RNAが合成されます。細胞内センサーによる2本鎖RNA認識・シグナル伝達を介して、自然免疫が活性化されます。ウイルスに対する代表的な自然免疫としては、①共抑制分子PD-L1 の発現と②インターフェロン(I型とIII型)産生が知られています。感染細胞上の①PD-L1によりウイルスを排除しようとするT細胞の機能が減弱化し、感染が持続すると考えられています。一方で②インターフェロンは抗ウイルス応答を引き起こし、細胞からウイルスを排除します。またPI3キナーゼは細胞内の様々な重要シグナル伝達を引き起こす酵素であり、そのうちの一つであるPI3キナーゼδの自然免疫への関与の有無は不明でした。本研究ではマウス肺とヒトから採取した気道上皮細胞を用いて、PI3キナーゼδ阻害剤(IC87114)のウイルスに対する自然免疫への効果を解析した結果、PI3キナーゼδ阻害剤は合成2本鎖RNAによる①PD-L1の発現上昇を抑制し、②インターフェロンの産生を増強しました。さらに気道上皮細胞に感染したヒトメタニューモウイルスの増殖抑制効果を認めました。これらの結果より、PI3キナーゼδ阻害剤は、気道ウイルス感染症の治療薬となりうることが期待されます。
本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(JP24591132, JP15K09222, JP18K15953)と九州大学病院ARO次世代医療センターからの支援を受けており、成果は2020年3月11日付で国際免疫学会連合の学術誌「Frontiers in Immunology」に掲載されました。
(参考図)緑色蛍光タンパク質を組み込んだヒトメタニューモウイルスを、ヒト初代培養気道上皮細胞に感染させた。感染前後にPI3キナーゼδ阻害剤を処置した細胞(右)では処置していない細胞(左)に比べ、ウイルス感染細胞数の減少と感染により形成される合胞体の縮小化を認めた。
健常な方には風邪症状しかおこさないウイルスでも、呼吸器や心臓の基礎疾患がある場合は重篤となることがあります。感染ウイルスの増殖や感染による炎症を抑える薬剤を開発し、基礎疾患の進行防止や患者さんのQOLの改善に貢献したいと考えています。