Research Results 研究成果
九州大学大学院農学研究院の久米篤教授は、岐阜大学応用生物科学部の石田仁准教授と富山県農林水産総合技術センター森林研究所によって1998年からモニタリングされている富山県・立山のブナ・スギ林の森林動態データを解析し、大陸から輸送される大気汚染物質の減少が、大気汚染に敏感なブナと耐性のあるスギの種間関係を変化させ、ブナの競争力を高める重要な要因となっていることを明らかにしました。
アジア大陸の東側に位置する日本は、大陸からの西風が卓越し、中国や韓国など近隣アジア諸国から排出される大気汚染物質の影響を受けやすくなっています。21世紀初頭の中国の急速な工業化に伴う化石燃料消費の増加は、対流圏オゾンや酸性物質の長距離輸送をもたらし、日本の山岳地域の森林にも影響を与えました。しかし、2006年以降、中国が大気汚染対策を強力に推進した結果、大気汚染物質の排出量は減少傾向にあります。さらに、2008年から2013年にかけての気候パターンは大陸からの西風を弱め、日本周辺の対流圏オゾン濃度を低下させました。
立山周辺には、オゾンなどの大気汚染に弱い樹種であるブナと大気汚染に強い樹種であるスギが一緒に成育している森林があります。中国からの大気汚染物質の輸送量が減少した期間は、ブナの成長が向上した一方、スギの成長はほとんど変化していませんでした。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(JP19H04281、JP23570030)の支援を受けました。
本研究成果は、2020年8月27日に「Environmental Pollution」誌のオンライン速報版で公開されました。
(参考図)ブナとスギが混交した立山の森林調査サイトの測定例。ブナでは、2008年以降、胸高直径が40cm以上の個体もそれ以下の個体も成長量が増加している。一方、スギではブナに押されて成長量が減少気味である。
(写真)ブナとスギが混交している様子
(写真)富山県森林研究所と岐阜大学による森林モニタリング調査の様子
Impact of reduced ozone concentration on the mountain forests of Mt. Tateyama, Japan , Environmental Pollution
DOI:10.1016/j.envpol.2020.115407