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性格による層別化がうつ病血液バイオマーカーの識別性能を向上させることを発見

 
〜ヒトとマウスのクロスバリデーション研究〜

公開日:2020.10.06

 

研究成果 Humanities & Social Sciences Life & Health

 永年、ヒトの性格・気質(以下、性格)とうつ病との関連が議論されてきましたが、その生物学的な基盤はよくわかっていません。九州大学病院検査部の瀬戸山大樹助教・康東天教授と同病院精神科神経科の加藤隆弘講師・神庭重信名誉教授らの研究チームは、これまで血液中の代謝物測定により、うつ病の重症度や自殺願望の強さを予測するバイオマーカー候補を発見してきました。今回、日本医療研究開発機構 (AMED)の支援により、広島大学の山脇成人特任教授および鳥取大学の岩田正明准教授らとの共同研究で、従来から知られていたうつ病の血液バイオマーカーの識別性能が特定の性格を有する集団で飛躍的に向上することを発見しました。まず、BIG-5による性格検査により、未服薬の大うつ病患者100名と健常者100名(合計200名)を、神経症傾向が高く外向性が低い「うつ気質」と呼ばれる性格を有する集団、その真逆の性格傾向の集団、そして、こうした性格の偏りが少ない集団(患者と健常者が半数ずつ含まれる86名)に層別化しました。つぎに血液メタボローム解析で得た代謝物情報に基づく機械学習モデルを作成し、うつ病か否かを判別させると、全被験者を対象とした場合に比べて、性格の偏りが少ない集団に限定した場合、その識別性能が飛躍的に向上しました(図1)。この集団ではトリプトファン、セロトニン、キヌレニンなどのトリプトファン経路の代謝物が判別に大きく貢献していました。他方、サルコシン、セリン、アラニンなど性格傾向に関係なくうつ病と関連する代謝物も同定しました。
 「うつ気質」では比較的弱いストレスでもうつ病になるリスクが高いですが、「うつ気質」でなくても強いストレス下ではうつ病が引き起こされることが稀ではありません。今回のような「性格の偏りが少ない集団」の中のうつ病患者はこのタイプである可能性があります。そこで、ストレスとうつ病と血中代謝物との因果関係を探るために、ストレス誘発性うつ病モデルとして知られている社会的敗北ストレスモデルマウスの血中代謝物を測定したところ、ストレス負荷後に血中トリプトファンが低下していました(図2)。
 この研究は、性格がうつ病血液バイオマーカーの識別性能と関連することを示した初めての報告です。今後、性格とストレスとうつ病の生物学的関係を解明するための橋渡し研究の加速により、一人一人のうつ病患者に適した個別化医療の実現が期待されます。本成果は、2020年10月1日(木)(日本時間)に、国際学術誌「Journal of Affective Disorders」に掲載されます。

・左図. うつ病関連気質の影響が中間的な被験者集団において血液成分を比較すると、健常者に対してうつ病患者のトリプトファン、キヌレニン、セロトニンが有意に低下していました。
・右図. また、中間群だけを抽出して血液成分情報に基づくうつ病判別分析を行うと、全被験者を対象とした場合に比べて、うつ病の診断性能が飛躍的に向上していました。AUC値はモデルの診断性能を示しました(1に近づくほど良い判別モデルとみなされます)。

・ストレス誘発性うつ病モデルとして知られている社会的敗北ストレス(SDS)モデルマウスの作成法。7週齢のC57BL/6J系統のオスに対して、攻撃者である10週齢以上のCD-1系統のオスを1日10分間程度共存させることで強いストレスを与えます。SDSモデルはこの操作を10日間継続させます。このように持続的な高ストレスにさらされたマウスでは、血中のトリプトファンが有意に低下していました(***:p<0.001)。

研究者からひとこと

うつ病と一言でいっても、実は様々なタイプが存在します。現在の抗うつ薬の多くはトリプトファン経路の代謝物をターゲットにしていますが、効果の発現に個人差があります。今回の研究は、性格の違いにより、うつ病のバイオタイプが異なる可能性を示唆しています。バイオタイプの違いにより、異なる治療戦略が必要かもしれず、今後の研究の発展により、性格検査や採血により一人一人のバイオタイプを事前に把握することによる個別化医療の実現が期待されます。

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