Research Results 研究成果
大気に含まれる温室効果ガスの濃度上昇によって地球温暖化が進行しています。これを回避するためには、二酸化炭素(CO2)排出削減だけでなく、大気中にすでに排出されてしまっているCO2も処理しなければなりません。大気中のCO2を直接回収する技術(Direct Air Capture : DAC)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)でも重要視されており、地球温暖化1.5℃以下という目標のために、大きく期待されている技術の一つです。しかしながら、従来のCO2回収技術は、大規模な設備を必要とすること、導入場所が限定されること等の問題がありました。
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー研究所(I2CNER)の藤川茂紀准教授らの研究グループは、株式会社ナノメンブレンとの共同研究により、最先端の高分子分離膜性能に基づいて、多段の膜分離により空気中のCO2(0.04%)を40%以上まで濃縮可能であることを明らかにしました。膜によるCO2回収は、エアーフィルターのように場所を選ばず、さまざまなサイズ・規模で導入可能であり、「ユビキタスCO2回収」という新しい発想のCO2回収技術になることが期待されます。この技術は、CO2を資源として循環させ、循環型経済を切り拓く、現実的な手段になる可能性を秘めています。本研究はJSPS科研費 JP19K15342,JP20H02781の助成を受けたものです。
本研究成果は、令和2年10月15日(日本時間)に学術誌『Polymer』オンライン版
https://doi.org/10.1038/s41428-020-00429-zで公開されました。
藤川准教授らが所属する九州大学の研究チームは、内閣府が主導する新しい研究プロジェクト「ムーンショット型研究開発事業」(プログラムマネージャー:藤川茂紀)に採択され、この技術の実用化に関する研究を開始しました。このプログラムでは、場所や状況に応じて分離ユニットサイズを適応させ、大気中のCO2を直接回収し、それを有用な資源物質にオンサイトで変換することを主な開発目標としています。
分離膜を使った、大気からのCO2回収は、従来にはない全く新しいアプローチです。植物は葉を広げて、大気からCO2を取り込み、自身の栄養としています。これにヒントを得つつ、資源循環社会構築に必要な新たな技術開発を進めます。
タイトル:A new strategy for membrane-based direct air capture
著者名:Shigenori Fujikawa, Roman Selyanchyn & Toyoki Kunitake
掲載誌:Polymer
DOI:10.1038/s41428-020-00429-z