Research Results 研究成果

全ミトゲノム解析で無秩序な放流実態とヤマメの危機的状況を解明

〜保全と今後の資源管理に期待〜 2020.11.06
研究成果Life & Health

 九州大学大学院農学研究院 技術専門職員の鵜木(加藤)陽子博士、同研究院生物資源環境科学府博士課程2年の梅村啓太郎大学院生、同研究院の田代康介准教授らの研究チームは、ヤマメの全ミトゲノム解析*によって佐賀県嘉瀬川水系内の非在来系統の放流実態とそれによる在来ヤマメの危機的状況、さらに推定される在来集団の主系統を明らかにしました。
 ヤマメは河川毎に分化し、固有の特徴(形態・性質・遺伝型)を持っています。放流で使用するヤマメの多くは別の河川に由来するため、安易な放流は、放流魚との交雑により、元々住むヤマメ(在来ヤマメ)が持つ固有の特徴を失うリスクを伴います。在来ヤマメに配慮した適切な資源管理を行うには、そこに生息するヤマメの遺伝情報が必要ですが、九州ではヤマメの研究がほとんど行われておらず情報が不足しています。研究チームは、放流に使用されるヤマメの養殖魚と嘉瀬川水系に生息するヤマメについて、従来法とは異なる全ミトゲノム解析を行うことで、水系内に放流された養殖魚由来の遺伝子を指紋認証のように特定し、それら遺伝子の分布を明らかにしました。放流履歴のある河川は事前調査では5箇所でしたが、養殖魚由来の遺伝子は水系内17箇所のうち13箇所で検出され、非公式な放流が広範囲で行われていることが示唆されました。養殖魚の遺伝子型と一致しない遺伝子には在来のものが含まれていると推察され、嘉瀬川水系の元々の主系統の推定を可能にしました。本研究で得られた遺伝情報は、他の河川にも適用可能で、今後、環境DNA分析などによるヤマメの密放流の監視や推定される在来遺伝子のモニタリングなどに活用されることが期待されます。
 本研究成果は、日本学術振興会科学研究費 (JP16H00474)および九州大学研究活動基礎支援制度の支援を受けて行われたもので、11月4日(水)午後2時(米国東部時間)に米国科学雑誌PLOS ONEに掲載されました。

*全ミトゲノム解析:ミトコンドリアDNAの全長を解析すること。

本調査は、佐賀県の特別採捕許可(許可番号No.3018)および通常の漁によって行われました。通常の漁は、全長15cm以下は採捕禁止、漁期3月1日〜9月30日(10月1日〜2月末日の間は禁漁)などが定められた「佐賀県内水面漁業調整規則」および「佐賀県内水面漁場管理委員会指示」を遵守して実施されました。

研究者からひとこと

今後の資源管理で重要な事は、放流せずに在来ヤマメを守る場所と、放流して資源を利用する場所を分ける事です。また、放流だけでなく、河川環境や周辺の森林環境を整えることも大切です(産卵床の造成; 岩陰や淵、河畔林の再生; 人工林の適切な管理など)。 本研究結果を基に、適切な資源管理と在来ヤマメの保全が進むことを期待します。

論文情報

タイトル:
著者名:
Yoko Kato-Unoki ,Keitaro Umemura,Kosuke Tashiro 
掲載誌:
PLOS ONE 
DOI:
10.1371/journal.pone.0240823 
 
 

研究に関するお問い合わせ先

農学研究院 鵜木(加藤)陽子 技術専門職員
Mail: unoki.yoko.659★m.kyushu-u.ac.jp
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