Research Results 研究成果

難病の早期乳児てんかん性脳症のメカニズムを解明

~日本人に多い遺伝子型との関係が注目~ 2020.11.20
研究成果Life & Health
九州大学生体防御医学研究所の土本大介助教と古賀祐一郎大学院生(研究当時)らのグループは、日本大学、安田女子大学、名古屋大学との共同研究で、難病の早期乳児てんかん性脳症(EIEE)*1の一種であるEIEE35の発症の原因を、マウスモデルを用いて明らかにしました。

このマウスでは、イノシン三リン酸分解酵素(ITPA)遺伝子の変異によりイノシン三リン酸*2が蓄積し、神経細胞の膜電位*3を低く維持できないことで脳が興奮し易い状態になり、てんかん発作を起こしていました。EIEEの原因遺伝子としては、神経細胞の膜電位に直接関わるイオンチャネルの遺伝子変異が複数知られており、それらはチャネル病と呼ばれます。しかし、イオンチャネル以外の遺伝子が原因のEIEEもあり、その多くは発症メカニズムがわかっていませんでした。今回の結果は、イオンチャネル遺伝子以外の遺伝子変異でも、膜電位変化をもたらすことで神経細胞が興奮しやすくなり、てんかん性脳症へとつながることを示しており、非チャネル型のてんかん性脳症の原因解明と治療につながることが期待されます。

日本人には、ITPA遺伝子の産物であるイノシン三リン酸分解酵素の活性が10%程度と低い人が比較的多いとされています。その人たちは通常は健康ですが、赤血球にはイノシン三リン酸が蓄積していることが報告されており、他の遺伝子背景や健康状態によってはEIEE35のように神経が興奮しやすい性質を持つ可能性が考えられ、今後のさらなる研究が期待されます。

本研究成果は2020年11月19日午前9時(米国東部標準時)に米国科学雑誌JCI Insightに掲載されました。
ITP蓄積が膜電位上昇をもたらし、神経過剰興奮からてんかん発作を起こすことが明らかとなった
参考図
ITP蓄積が膜電位上昇をもたらし、神経過剰興奮からてんかん発作を起こすことが明らかとなった
ITP蓄積が膜電位上昇をもたらし、神経過剰興奮からてんかん発作を起こすことが明らかとなった
参考図
ITP蓄積が膜電位上昇をもたらし、神経過剰興奮からてんかん発作を起こすことが明らかとなった
研究者からひとこと
我々の体の中にたくさん存在して調味料としても使われるイノシン一リン酸にリン酸が2つ付いただけでイノシン三リン酸になります。そのような分子が溜まることでこれほど大きな影響を与えるのは驚きでした。日本人の50人に1人はこの分子の分解活性が低いとされています。我々の健康や疾患との関係がさらに解明されるように研究を進めたいと思っています。
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用語の解説
 
※1 EIEE
早期乳児てんかん性脳症(Early Infantile Epileptic Encephalopathy)。生後数週間以内の乳児早期に発症する難治性のてんかん。多くの原因遺伝子が判明しておりITPA遺伝子もその一つ。発症機構が未解明なものが多い。
※2 イノシン三リン酸
通常はイノシン三リン酸分解酵素(ITPA)により分解されるため生体内に存在しないが、ITPAが欠損すると蓄積する。その構造はATP (アデノシン三リン酸)やGTP (グアノシン三リン酸)といった正常プリンヌクレオチド分子と非常に似ている。そのため、ATPやGTPの邪魔をする可能性がある。
※3 膜電位
細胞膜内外の電位差。神経細胞における膜電位上昇は興奮につながる。
論文情報
 
論文名:
Neural stem cell-specific ITPA deficiency causes neural depolarization and epilepsy
著者名:
Yuichiro Koga, Daisuke Tsuchimoto, Yoshinori Hayashi, Nona Abolhassani, Yasuto Yoneshima, Kunihiko Sakumi, Hiroshi Nakanishi, Shinya Toyokuni, Yusaku Nakabeppu
掲載誌:
JCI Insight
DOI:
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