Research Results 研究成果
九州大学生体防御医学研究所およびIMBA(ウィーン、オーストリア)の池田史代教授、Lilian Fennell研究員、Carlos Gomez Diaz氏(博士課程学生)らの研究グループは、ユビキチン化(※1)による炎症性反応を制御する分子メカニズムの解明に成功しました。
生体内の炎症反応は、免疫細胞などの様々な種類の細胞内におけるシグナル伝達により制御されています。この細胞内シグナル伝達(※2)を担う分子の働きと制御メカニズムの解明が、ひいては我々の生体内での炎症反応の理解につながります。池田教授らは、これまでに、タンパク質を翻訳後修飾するユビキチンとよばれる小分子が、新規型のユビキチンコード(直鎖型ユビキチン鎖)を作製し、炎症を司る分子の複合体形成のカギとなることを見出しています(Rahighi et al. Cell 2009, Ikeda et al. Nature 2011) 。今回の研究では、直鎖型ユビキチン鎖を誘導する酵素HOIP(※3)が、ある特異的な部位にユビキチン修飾を受けることによって、細胞内での炎症シグナル伝達を制御していることを初めて明らかにしました。HOIP分子は、細胞内でユビキチン修飾を受ける部位が複数存在しますが、その中でもIBR部位と呼ばれるHOIPの酵素活性中心に近い部位の修飾が特に重要であることを、CRISPR-Cas9ゲノム編集法を用いて作製した遺伝子改変マウスを用いて示しました。
自己免疫疾患患者において、直鎖型ユビキチン鎖誘導因子の遺伝子変異が見つかっていることから、本研究による直鎖型ユビキチン鎖に関わる分子の制御メカニズムの解明は、将来的には自己免疫疾患発症メカニズムの理解や治療法開発にもつながると期待されます。
本研究成果は、2020 年11月20 日(金)午後8 時(日本時間)に欧州分子生物学機関誌『EMBO Journal』 オンライン版に掲載されました。
【用語の解説】
※1 ユビキチン化
ユビキチンはユビキタスに発現する(至るところにある)小さな分子で、標的となる分子を修飾する。ユビキチン修飾(ユビキチン化)によって、標的分子の活性、構造、安定性が制御される。ユビキチン分子は複数の分子が連なり、鎖としても機能できる。この鎖の形態や長さが標的分子の運命決定に重要であることも分かっている。
※2 細胞内シグナル伝達
個々の細胞が何らかの刺激(炎症性サイトカインなど)により、細胞内で次々に情報が伝達される事象。シグナル伝達を媒介するための媒介分子が存在し、他の分子を修飾したり、シグナル分子複合体形成を誘導したりすることにより、シグナルを核内へ伝達し、最終的には標的遺伝子の転写調節がおこる。細胞内シグナル伝達によって、細胞の運命や行動が決定されることから、その伝達の調整が重要である。
※3 HOIP
ユビキチン化を誘導する酵素の種類によって、ユビキチン化の形態や標的分子が選ばれる。HOIPは、ユビキチン化を担う酵素の一つである。HOIPの酵素活性は、特別なユビキチン鎖の形態(直鎖型ユビキチン鎖)を決定できる唯一の酵素として知られる。HOIP酵素による直鎖型ユビキチン鎖の誘導が、炎症性の細胞内シグナル伝達に重要な働きをしている。