Research Results 研究成果
九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の 辻健 教授、池田達紀 助教、Rezkia Dewi Andajani 博士学生、コロラド鉱山大学のRoel Snieder教授は、微小な振動(微動)を用いたモニタリング手法で、日本列島深部で生じる地殻の不安定さ(地震や噴火の発生しやすさ)の時空間変動を推定することに成功しました。
九州大学のグループでは、日本列島の地殻内部を微動が伝わる速度(弾性波速度)の時空間変化をモニタリングする手法の開発を行ってきました。これまでの研究で、日本列島の地表から地下約5kmまでの弾性波速度の時空間変化を推定することに成功しました(図1)。1日ごとのモニタリング結果は、地殻内部の不安定性の評価に資する新たな情報として、既にWeb上にも公開しています(URL:http://geo.mine.kyushu-u.ac.jp/tsuji/monitoring.html)。
しかし、弾性波速度は、地震や噴火、地下の水圧(間隙水圧)などの様々な要因により時間変化することは知られていますが、その変化量を定量的に評価する方法は未だ確立されていませんでした。そこで本研究では、弾性波速度変化と降水に伴う間隙水圧変化の関係を調べました。間隙水圧は、地震や火山噴火、地滑り等の地殻の不安定性を評価する上で欠かせない値です。
解析の結果、我々がモニタリングしている弾性波速度(図1)は、地下の間隙水圧の変化を反映しており(図2)、その変化のパターンは岩石の種類や、岩石内の流体の流れやすさに依存することを明らかにしました。つまり、我々のモニタリングシステムにより、地殻の不安定性の度合いを示す「間隙水圧」の時空間変化をモニタリングできる可能性があることが分かりました。
今後は、GPS等の地表測地データでは得られない新たな地中のモニタリングデータとして確立するべく、機械学習といった手法も駆使し、より高精度な定量化手法の開発を進めていきます。
また、本研究で開発した手法は、CO2の地下貯留といった地下空間の利用に伴う誘発地震の防止にも役立つことが期待できます。
本研究は、日本学術振興会科学研究費(JP20H01997)の支援を受けたものです。本研究成果は2020年11月24日に国際科学誌『Earth, Planets and Space』に掲載されました。
図1:全日本列島地殻内部の弾性波速度の時空間変化。ここでは深度5kmのモニタリング結果を示す。赤い部分が、弾性波速度が低下した場所、つまり間隙水圧が高く、地殻が不安定な場所である。
図2:弾性波速度変化と間隙水圧の比較。両者には負の相関があることから、弾性波速度から間隙水圧を予測できる可能性があるといえる。