NEWS

膵臓部分切除術後の糖尿病発症に関与する因子の解明

 
~腸内環境と膵臓内分泌細胞の可塑性の重要性~

公開日:2021.02.24

 

研究成果 Life & Health

 糖尿病は、膵臓のβ細胞に由来するインスリンの不足や作用低下による慢性的な高血糖に特徴付けられる症候群であり、日本では糖尿病が強く疑われる者あるいは糖尿病の可能性が否定できない者が約2000万人いると推計されています。一方、膵臓部分切除術は、膵癌を含む腫瘍病変に対して施行されますが、腫瘍の発生部位により、手術術式は膵頭十二指腸切除術(PD)と膵体尾部切除術(DP)に大別されます。
 九州大学大学院医学研究院の小川佳宏教授らの研究グループ(※)は、膵臓部分切除術前後の詳細な耐糖能の経時変化の解析により、いずれの術式も膵臓を半分程度切除するにもかかわらず、PDではDPと比較して術後5年間の糖尿病の累積発症率が著しく低い値であることを見出しました。PDでは、近位小腸のバイパス手術により術後6ヶ月の腸内細菌叢の様相が著しく変化し、糞便中の短鎖脂肪酸と小腸のL細胞に由来するインクレチンGLP-1分泌の増加に伴ってインスリン分泌が増加して糖尿病発症に抑制的に作用することが示唆されました。一方、DPでは、術後5年間に約60%が糖尿病を発症しますが、切除膵臓の病理組織学的解析により、細胞の可塑性のマーカーであるALDH1A3の発現増加を伴う膵島の腫大(膵臓β細胞面積の増大)が糖尿病発症に関連することが明らかになりました。
 本研究結果で、術式により膵臓部分切除術後の糖尿病発症が異なることが明らかとなり、膵臓部分切除術後の糖尿病の発症予測とともに、糖尿病発症における腸内環境と膵内分泌細胞の可塑性の病態生理的意義が臨床的に証明されました。本研究成果は、膵臓部分切除術後のみならず通常の2型糖尿病の発症機構の理解にも新しい洞察をもたらすものです。

左:膵頭十二指腸切除術(PD)では、近位小腸のバイパス手術により腸内環境が著しく変化し、GLP-1分泌の増加に伴ってインスリン分泌が増加するため、術後糖尿病の発症率は低くなる。
右:膵体尾部切除術(DP)では、切除膵臓において内分泌細胞の可塑性増大を伴う膵島の腫大がある場合、インスリン分泌が低下して術後糖尿病の発症率が高くなる。

 

※研究グループ
・九州大学大学院医学研究院
 病態制御内科学(第三内科) 教授 小川佳宏
・国立国際医療研究センター研究所
 糖尿病情報センター 室長 坊内良太郎
・東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
 分子内分泌代謝学分野(糖尿病・内分泌・代謝内科) 教授 山田哲也、大学院生 福田達也、大学院生 竹内崇人
 肝胆膵外科 教授 田邉 稔、准教授 工藤 篤
 分子腫瘍学分野 教授 田中真二
 病理部 准教授 明石 巧
・山口大学
 大学院医学系研究科病態制御内科学講座 教授 谷澤幸生
 医学部附属病院糖尿病・内分泌内科(第三内科) 講師 田部勝也
 医学部分子代謝制御学講座 助教 椎木幾久子
・森永乳業研究本部基礎研究所
 腸内フローラ研究グループ グループ長 小田巻俊孝
・東京農工大学大学院農学研究院
 代謝機能制御学研究室 教授 木村郁夫、特任准教授 五十嵐美樹
・東京大学大学院農学生命科学研究科
 獣医公衆衛生学研究室 教授 平山和宏

研究者からひとこと
本研究は、内科医と外科医の緊密な連携による膵臓部分切除術前後の詳細な耐糖能の解析により完成しました。臨床検体の解析にこだわり、若手の病棟担当医と大学院生が根気強く頑張ってくれて、学部を越えた他施設共同研究により臨床的に重要なメッセージを発信することができました。

論文情報

タイトル:
Importance of Intestinal Environment and Cellular Plasticity of Islets in the Development of Postpancreatectomy Diabetes
著者名:
Tatsuya Fukuda, Ryotaro Bouchi, Takato Takeuchi, Kikuko Amo-Shiinoki,
Atsushi Kudo, Shinji Tanaka, Minoru Tanabe, Takumi Akashi, Kazuhiro Hirayama, Toshitaka Odamaki, Miki Igarashi, Ikuo Kimura, Katsuya Tanabe, Yukio Tanizawa, Tetsuya Yamada, and Yoshihiro Ogawa 
掲載誌:
Diabetes Care 
DOI:

研究に関するお問い合わせ先

医学研究院 小川 佳宏 教授