Research Results 研究成果

Tsukushi遺伝子による脳神経幹細胞の制御メカニズムを解明

~水頭症の診断と新たな治療開発に期待~ 2021.04.01
研究成果Life & Health

 水頭症は、脳室が拡大して、脳室内での脳脊髄液が停滞し、頭蓋骨内の圧力が高まることにより発症する難病指定の特定疾患です。特に、特発性正常圧水頭症は、歩行障害・精神疾患・尿失禁などの症状を呈し、高齢化社会を迎える日本における患者数増加が懸念されていますが、その発症要因が不明であることから、本疾患の新規予防・治療薬の開発は喫緊の社会的課題となっています。今回の研究では、水頭症発症のメカニズムの解明につながる重要な研究結果を得ることができました。
 九州大学基幹教育院の太田訓正教授(研究当時:熊本大学大学院生命科学研究部)の研究グループは、熊本大学をはじめとする国内外の12大学、5研究所との共同研究により、自らが単離・命名したTsukushi遺伝子(*)が、水頭症の発症に関与していることを世界で初めて明らかにしました。 
 Tsukushi遺伝子欠損マウスでは、水頭症患者と同様に脳室が拡大しますが、脳室にTsukushiタンパク質を投与すると脳室の拡大が抑制されました。また、行動解析を行ったところ、Tsukushi遺伝子欠損マウスは、歩行困難を伴い、不安様行動を示しました。さらに、原因不明の水頭症患者のTsukushi遺伝子配列を調べたところ、3箇所のアミノ酸置換変異が観察されました。
 今後、Tsukushiを用いた水頭症診断と新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。
 本研究成果は、2021年4月1日(木)午前3時(日本時間)に科学雑誌「Science Translational Medicine」で公開されました。

【ポイント】
● Tsukushi遺伝子欠損マウスでは、水頭症患者と同様に脳室が拡大しますが、脳室にTsukushiタンパク質を投与すると脳室の拡大が抑制されました。
● 行動解析を行ったところ、Tsukushi遺伝子欠損マウスは、歩行困難を伴い、不安様行動を示しました。
● 原因不明の水頭症患者のTsukushi遺伝子配列を調べたところ、3箇所のアミノ酸置換変異が観察されました。

【研究の詳細】
[背景]
脳の中では脳脊髄液が循環して、脳を外部の衝撃から守ったり脳圧をコントロールしたりしています。脳脊髄液は脳室という空間で作られ、脳内を循環して吸収されます。水頭症は、脳室が拡大して、脳室内での脳脊髄液が停滞し、頭蓋骨内の圧力が高まることにより発症する難病指定の特定疾患です。特に、特発性正常圧水頭症は、歩行障害・精神疾患・尿失禁などの症状を呈し、高齢化社会を迎える日本における患者数増加が懸念されていますが、その発症要因が不明であることから、本疾患の新規予防・治療薬の開発は喫緊の社会的課題となっています。 

[研究の内容]
Tsukushi遺伝子欠損マウスでは、野生型マウスと比べ、脳の大きさがひと回り小さく、生後直後から水頭症患者の症状と類似した脳室拡大が観察されます。生後直後のTsukushi遺伝子欠損マウスの脳室にTsukushiタンパク質を投与すると、脳室の拡大が抑制されました。また、行動解析を行ったところ、Tsukushi遺伝子欠損マウスは、歩行困難を伴い、不安様行動を示しました。さらに、原因不明の水頭症患者のTsukushi遺伝子配列を調べたところ、3箇所のアミノ酸置換変異が観察され、この変異型Tsukushiタンパク質は、受容体であるFrizzled 3に結合することが出来ませんでした。人工的に、変異型Tsukushiタンパク質を発現するトランスジェニックマウスを作成したところ、このマウスでは脳室拡大が観察されました。 

[成果]
九州大学基幹教育院の太田訓正教授(研究当時:熊本大学大学院生命科学研究部)の研究グループは、熊本大学をはじめとする国内外の12大学、5研究所との共同研究により、自らが単離・命名したTsukushi遺伝子(*)が、水頭症の発症に関与していることを世界で初めて明らかにし、水頭症発症のメカニズムの解明につながる重要な研究結果を得ることができました。

[展開]
今後、Tsukushiを用いた水頭症診断と新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。

【用語解説】
*Tsukushi遺伝子:ニワトリ初期胚における発現パターンが、土筆に似ていることから命名された分泌型タンパク質で、細胞外領域において情報を制御するシグナル仲介分子として機能します。

【謝辞】
本研究は、JSPS科学研究費(JP22122009)、熊本大学・臨床-基礎連携プロジェクト、熊本大学発生医学研究所・国際研究拠点の支援を受けて実施したものです。

研究者からひとこと
私たちが新たな遺伝子として命名したTsukushiの基礎研究を始めて20年が経過しました。
今後は、Tsukushiが臨床研究においても治療等に寄与することを期待しています。

論文情報

タイトル:
著者名:
Naofumi Ito, M. Asrafuzzaman Riyadh, Shah Adil Ishtiyaq Ahmad, Satoko Hattori, Yonehiro Kanemura, Hiroshi Kiyonari, Takaya Abe, Yasuhide Furuta, Yohei Shinmyo, Naoko Kaneko, Yuki Hirota, Giuseppe Lupo, Jun Hatakeyama, Felemban Athary Abdulhaleem M, Mohammad Badrul Anam, Masahiro Yamaguchi, Toru Takeo, Hirohide Takebayashi, Minoru Takebayashi, Yuichi Oike, Naomi Nakagata, Kenji Shimamura, Michael J. Holtzman, Yoshiko Takahashi, Francois Guillemot, Tsuyoshi Miyakawa, Kazunobu Sawamoto and Kunimasa Ohta 
掲載誌:
Science Translational Medicine 
DOI:
10.1126/scitranslmed.aay7896 

研究に関するお問い合わせ先

基幹教育院 太田 訓正 教授