Research Results 研究成果

南海トラフのスロー地震震源域近傍に高圧の間隙水帯を確認

スロー地震発生のメカニズム解明へ前進 2021.06.17
研究成果Physics & ChemistryTechnology

発表のポイント

  • 地球深部探査船「ちきゅう」によって、室戸岬沖南海トラフ・プレート境界沿いのスロー地震震源域近傍の岩盤を掘り抜いていたことがわかった。
  • プレート境界沿いに幅数百メートルの拡がりを持つ高圧の間隙水帯が存在することを、初めて直接確認した。
  • 室戸岬沖南海トラフのプレート境界浅部には複数の高圧の間隙水帯がパッチ状に点在していることが示唆された。今後、間隙水圧帯とスロー地震発生との関係を探ることでプレート境界地震研究の進展が強く期待される。

概要

 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是)超先鋭研究開発部門 高知コア研究所の廣瀬 丈洋 上席研究員、濱田 洋平 副主任研究員らは、京都大学、神戸大学、九州大学、東京大学などと共同で、地球深部探査船「ちきゅう」によって⾼知県室戸岬沖南海トラフのプレート境界断層近傍から採取されたコア試料*1を分析するとともに、掘削孔から噴出する流体の流量を解析しました。その結果、初めてスロー地震の震源近傍における高圧の間隙水帯の存在を直接確認することに成功しました。
 プレート境界で発生するスロー地震*2は、巨大地震の準備過程や発生と密接に関わっていると考えられており、その発生メカニズムの解明が期待されています。これまでの地球物理観測の研究から、スロー地震の発生には岩盤中の空隙を埋める高圧の水(以下、「高間隙水圧帯」という。)が関与していることが示唆されていますが、実際にスロー地震震源域に高間隙水圧帯が存在するのか、これまで確証を得られていませんでした。
 本研究では、海洋科学掘削による直接的なアプローチにより、プレート境界浅部のスロー地震震源域近傍で実際に高間隙水圧帯が存在することを初めて直接確認するとともに、その解析の結果、複数の高間隙水圧帯がパッチ状に点在していることを明らかにしました。
 本成果は、スロー地震の発生に高間隙水圧帯の存在が関与していることを強く支持するものです。高間隙水圧帯がスロー地震を引き起こすメカニズムが明らかになれば、スロー地震と巨大地震の関連性の解明、地震の発生予測にも大きく貢献すると期待されることから、今後さらに掘削・保管コア試料を用いた室内実験や数値シミュレーションなどを進めていく予定です。
 本成果はアメリカ物理学連合が刊行する科学誌「Journal of Geophysical Research; Solid Earth」に6月〇〇日付(日本時間)で報告されました。なお、本研究はJSPS科研費19H02006、19K21907及びJP16H06476の助成のもと行われました。

図1. ⾼知県室⼾岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部の掘削試料採取およびデータ取得地点(サイトC0023)。スロー地震の一種である超低周波地震の発生場所を灰色と緑-白円(Asano et al., 2008; Nakano et al., 2018; Takemura et al., 2019)で、スロースリップ領域をピンク色(Yokota and Ishikawa, 2020)で示している。

論文情報

タイトル:
著者名:
廣瀬 丈洋、濱田 洋平、谷川 亘、神谷 奈々、山本 由弦、辻 健、木下 正高、Verena Heuer、稲垣 史生、諸野 祐樹、久保 雄介
掲載誌:
Journal of Geophysical Research; Solid Earth 
 

研究に関するお問い合わせ先

工学研究院 辻 健 教授