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Research Results 研究成果

マウス多能性幹細胞から機能的な卵巣組織の再生に世界で初めて成功!

〜卵子の産生に動物由来の体細胞が不要に〜 2021.07.16
研究成果Life & HealthPhysics & Chemistry

 九州大学大学院医学研究院の林克彦教授、吉野剛史助教、理化学研究所生命医科学研究センターの鈴木貴紘上級研究員らの研究グループは、世界で初めてマウスの多能性幹細胞(※1)から卵巣組織を再構築し、それらから機能的な卵子を作出しました。
 林教授らの研究グループはこれまでに、マウスの多能性幹細胞を生殖細胞のもとである始原生殖様細胞(PGCLCs)(※2)に分化させることに成功していました。しかしPGCLCsを卵子に発生させるには、胎仔卵巣(※3)の体細胞を必要とするためにヒトなどへの応用は限られていました。
 本研究では胎仔卵巣の体細胞と似た細胞(FOLSCs)(※4)をマウスのES細胞から分化誘導することに成功しました。FOSLCsにより作られた細胞環境下では、ES細胞から分化誘導したPGCLCsは卵胞という特殊な構造に包まれて卵子にまで発生しました。その発生過程は生体内の発生の様子と極めて良く似ており、得られた卵子は受精によりマウス個体に発生しました。そして、これらのマウスは繁殖可能な成体にまで成長しました。すなわち、マウスの卵子の産生には胎仔に由来する体細胞は必要なくなり、ES細胞のみから卵子を含む機能的な卵巣組織を再構築できることを示しています。
 ヒトや絶滅危惧種を含むさまざまな動物の多能性幹細胞からPGCLCs誘導が世界各国で試みられていますが、いずれの種においても胎仔卵巣は取得困難であり、卵子作製のためには大きな障壁となっていました。本研究成果はその障壁を取り除く大きな成果となります。また卵巣は個体の性を決定する内分泌器官としての側面ももちます。本研究の卵巣組織の再生技術は、卵子の産生のみならず、卵巣に関わる様々な疾患の原因究明にも寄与すると思われます。
 本研究成果は、2021年7月15(木)14時(米国時間)に『Science』にオンライン掲載されました。

参考図

マウスES細胞から卵子を含む卵巣組織の分化誘導法の概略

卵母細胞(緑・青)を支持細胞(赤)と莢膜細胞(白)(ともに卵巣体細胞)が覆う卵胞構造が多数形成される。

再構築卵巣から得られた卵子を受精して作出されたマウス。

用語説明

(※1) 多能性幹細胞
体のあらゆる細胞になれる細胞。具体的には胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが挙げられる。これらの細胞は体外培養で無限に増殖する。

 (※2) 始原生殖様細胞(PGCLCs)
多能性幹細胞から体外培養で分化誘導した始原生殖細胞とよく似た細胞。Primordial Germ Cell-Like Cellsの略。始原生殖細胞はすべての卵子や精子のもととなる生殖細胞の源の細胞。

 (※3) 胎仔卵巣
胎仔の中で発生の過程にある卵巣。将来の卵巣になるために生殖細胞を含めた多くの前駆体細胞を含む。

 (※4) FOLSCs
多能性から体外培養で分化誘導した胎仔卵巣とよく似た細胞。Fetal Ovarian Somatic Cell-Lie Cellsの略。卵胞を構成するすべての細胞種が含まれる。

研究者からひとこと
卵巣の体細胞の発生の仕組みは十分にわかっておらず、ES細胞からの分化誘導も困難なことが多くありました。この研究で様々な試行錯誤の末に、卵巣の体細胞を分化誘導できたことを嬉しく思います。この成果をもとに様々な動物の生殖巣を再構築し、発生学、生殖工学、性分化研究に貢献できるよう、一層、励みたいと思います。

論文情報

タイトル:
著者名:
Takashi Yoshino, Takahiro Suzuki, Go Nagamatsu, Haruka Yabukami, Mika Ikegaya, Mami Kishima, Haruka Kita, Takuya Imamura, Kinichi Nakashima, Ryuichi Nishinakamura, Makoto Tachibana, Miki Inoue, Yuichi Shima, Ken-ichirou Morohashi, Katsuhiko Hayashi 
掲載誌:
Science
DOI:
10.1126/science.abe0237

研究に関するお問い合わせ先

医学研究院 林 克彦 教授