Research Results 研究成果
研究のポイント
概要説明
熊本大学大学院生命科学研究部の田中靖人教授、名古屋市立大学大学院医学研究科の井上貴子講
師、九州大学大学院農学研究院の中山二郎教授らの研究チームは、C 型肝炎で起こる腸内環境の乱れ
をより詳細に調べるため、代謝物の一種・便中胆汁酸のバランスを解析し、その特徴を調べました。
C 型肝炎では腸内フローラ同様に胆汁酸のバランスも病初期から変化し、胆汁酸の一種であるデ
オキシコール酸が減少していました。また、肝臓での胆汁酸代謝酵素の発現量を調べたところ、C 型
肝炎では健常状態や NASH とは大きな差が見られました。以上のことから、C 型肝炎では肝臓での
胆汁酸代謝酵素の発現異常が原因となり、腸内フローラの異常や便中胆汁酸のバランス異常など腸
内環境の乱れが生じていると考えられます。これらの結果は、C 型肝炎悪化のメカニズムや病態の解
明、新薬の開発に道を開く可能性を示しています。本研究の成果は肝臓病学専門雑誌「Liver
International(リバー・インターナショナル)」電子版(世界標準時 9 月 5 日付)に公開されます。
C型肝炎の病期による便中胆汁酸のバランスの変化
縦の棒グラフ1本がひとりの人の便中胆汁酸相対比率を示す。健康な人(左側)ではオレンジ色が多く、便にデオキシコール酸が多く存在することが分かる。①HCVに感染することで便中胆汁酸のバランスが変わり、オレンジ色が少なくなる、つまりデオキシコール酸が減る。②PNALT、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと病期が進むにつれてこの特徴も顕著となる。
研究の意義と今後の展開や社会的意義など
本研究は、C型肝炎の腸内フローラや腸内代謝物の変化を統合して病期別に解析した最初の研究です。今回、肝組織での胆汁酸代謝酵素の発現異常が原因となって、C型肝炎での腸内環境の乱れ(腸内フローラ異常や便中胆汁酸のバランス異常)が起こることが分かりました。この成果により、HCVの感染が肝臓だけでなく腸内環境にまで影響を及ぼしていることが証明されました。この研究成果を医療関係者だけでなく、広く市民の皆様にも知っていただき、より早期にC型肝炎の治療をぜひ受けていただきたいと考えています。
用語解説
1)腸内フローラの乱れ(dysbiosis):フローラを構成する細菌種の異常で、細菌種多様性の減少(単純化)や、少ないはずの細菌種の異常な増加、多いはずの細菌種の減少などを指す。
2) ウレアーゼ:尿素を加水分解して、アンモニアと二酸化炭素を作り出す酵素のこと。
3)胆汁酸:コレステロールの代謝物であり、殺菌作用や代謝調節機能を持つ。肝臓を出て、十二指腸に流れ出て、腸管から再吸収され、再び肝臓に戻ってくるサイクル(腸肝循環)を起こす物質のひとつである。ヒトの便中に見られる主な胆汁酸として、コール酸・ケノデオキシコール酸・デオキシコール酸・リトコール酸・ウルソデオキシコール酸の5種類が知られている。
4)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH):アルコール摂取やウイルス感染のような原因がないにもかかわらず、肝臓に脂肪沈着・炎症・線維化といった変化を生じる疾患のこと。