Research Results 研究成果
水中を泳ぐ微生物や魚のように、自律的に動き、群れや渦といった秩序だった集団運動を示す物質群をアクティブマターといいます。このような集団運動を理解し、複雑な動きや流れを操ることは物質輸送の制御という観点からも重要な課題であります。アクティブマターの性質として、運動方向にわずかな偏りがあり、左向きになる頻度と右向きになる頻度が等しくならない「運動のキラリティー」があることが知られていました。しかし、この性質が巨大な集団運動の形成にどのような影響を与えるのかは十分に理解されていませんでした。
九州大学大学院理学研究院 前多裕介 准教授、別府航早 同博士課程学生、Ziane Izri 同学術研究員(研究当時)、東京理科大学理学部第一部 応用物理学科 住野豊 准教授らの研究グループは、九州大学大学院工学研究院 山西陽子 教授、佐藤匡 同博士課程学生(研究当時)らと共に、遊泳微生物のバクテリアにおいて運動のキラリティーが誘起する新たな集団運動現象を発見しました。
研究チームは独自のマイクロ流体デバイスを用いて、遊泳微生物のバクテリアを高密度に保ちながら円筒型マイクロウェル内に封入する技術を開発しました。すると集団運動は一方向(上から見て反時計回り)に定まったキラルな渦運動となることを発見しました。これはマイクロウェルの壁近傍で安定した流れ(エッジカレント)が出現することに起因し、複数のキラル渦が入り乱れる状況においても、エッジカレントが渦同士の回転方向を揃えることを明らかにしました。これらの結果は、群れとなり巨大な流れを安定化するために運動のキラリティーが重要であることを示しています。本研究で明らかにした新たなキラル集団運動の理解をもとに、水中を泳ぐマイクロロボットによる複雑な流れの制御や、運動のキラリティーで物質輸送を制御するデバイス設計への応用が期待できます。
本研究成果は、2021年9月24日(米国東部時間)に米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」で公開されました。
参考図
謝辞
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金JP16H00805, JP18H05427, JP20H01872, JP21K18605(研究代表者:前多裕介)およびJP16H06478, JP19H05403, JP21H00409(研究代表者:住野豊)の支援を受けて行われました。