Research Results 研究成果
有害環境化学物質として知られる環境ホルモンは、主に女性ホルモン・エストロゲンの受容体に結合してホルモンの働きを撹乱すると考えられています。有機環境化学物質として知られるプラスチック原料のビスフェノールAも、エストロゲン受容体に弱く結合します。私たち研究グループは、これまでに、ビスフェノールAよりもエストロゲン受容体に強く結合する、ビスフェノールAFやCを報告していました。これらは、2つあるエストロゲン受容体のうち、α型を活性化し、β型を阻害します。しかし、その理由は不明でした。
九州大学大学院理学研究院の松島綾美准教授の研究グループは、米国ソーク研究所のロナルド・エバンス教授らとの共同研究により、有害環境化学物質として知られるビスフェノールAFやCが、女性ホルモン・エストロゲンの受容体α型を活性化し、β型を阻害するメカニズムを明らかにしました。
今回、コンピュータを用いたドッキングシミュレーションにより、ビスフェノールAFやCは、エストロゲン受容体β型が転写作用を発揮するときに結合する転写因子の結合を阻害する、転写因子結合阻害剤であると予測しました。そこで変異体を用いた実験などを行い、これらの化合物が、転写因子結合阻害剤として働くことを明らかにしました。環境ホルモンであるビスフェノール類が複雑な作用を示すことを裏付ける、これまでにない知見です。このメカニズムを利用したエストロゲン受容体β型に特異的な阻害薬の開発にも繋がると期待されます。
本研究は、JSPS科研費(JP20H00635、JP18KK0320)などの支援を受けて実施しました。本成果は、令和3年9月6日(月)(日本時間)に米国生化学・分子生物学会の学術雑誌「Journal of Biological Chemistry」にオンライン掲載されました。(DOI: 10.1016/j.jbc.2021.101173)
エストロゲン受容体β型とビスフェノールCの結合モデル
(左)緑色のエストロゲン受容体β型の通常の化合物結合部位(灰色)と新しい結合部位(マゼンタ)。
(右)受容体の新しい結合部位に存在するビスフェノールC(水色)