Research Results 研究成果
概要
脳が発生する際には、神経幹細胞(※1)が異なる細胞を適切なタイミングで、決まった数作る必要があります。発生期の神経幹細胞は、まず神経細胞(ニューロン)を産み出し、その後にニューロンの機能を助ける細胞(アストロサイト)を産生することが分かっていましたが、この分化能変換のメカニズムはよく分かっていませんでした。
九州大学大学院医学研究院の堅田明子助教・中島欽一教授らの研究グループは、発生期の神経幹細胞が脳を形成する過程で、自身の遺伝的性質(エピゲノム※2)を変化させることで、同じ分化誘導因子に対しても、発生時期に応じて、ニューロンとアストロサイトを適切に作り分けること、またその分子メカニズムの詳細を解明することに成功しました。
今回、研究グループはマウス胎生11日由来と胎生14日由来神経幹細胞では、分化誘導因子である骨形成因子(※3)に対して、ニューロンとアストロサイトと異なる細胞を産み出すことに着目し、この二つの発生時期において骨形成因子の下流シグナルが標的とする遺伝子を全ゲノムレベルで解析しました。その結果、神経幹細胞が発生時期に応じて、クロマチン構造(※4)を適切に変化させること、またそれぞれの発生時期で異なる転写因子(※5)とパートナーになることで、精妙に産生する細胞種を制御することを明らかにしました。近年、脳発生の異常、ニューロンとアストロサイトの数のバランス異常が種々の発達障害・精神疾患に結びつくことが分かってきています。神経幹細胞が分化能を変換させる際の詳細な分子機構を明らかにすることは、これら疾患の発症メカニズムを理解するために重要となります。
本研究成果は、2021年10月21日(木)午後3時(米国東部標準時間)に国際学術雑誌『Genes & Development』にオンラインで掲載されました。なお、本研究は日本学術振興会科研費(JP16H06527, JP16K21734, JP26710003, JP20K06875)、国立研究開発法人科学技術振興機構 CREST(JPMJCR16G1)、内藤記念科学研究助成金の支援を受けました。
参考図