Research Results 研究成果
原子や分子のような微小な粒子の集まりは温度が高ければ高いほど高速に動き回り、固体から液体、液体から気体へとその状態が変化します。気体をさらに加熱すると、原子が電子とイオンに分かれ、それぞれが別々に動き回る物質の第4の状態、プラズマに変化します。プラズマでは個々の電子やイオンが様々な速度で運動し、それらの速度の統計性を表す速度分布関数を調べることがそのプラズマの性質を理解することに繋がります。例えば、磁化プラズマ中のイオンは、条件によって、最も単純な速度分布関数であるマクスウェル分布とは異なる統計性に従い、それを表すいくつかの理論モデルが提案されています。しかし、これまでは実験から得られたノイズを含むデータにどの理論モデルが対応するかを統計的に判別する方法がありませんでした。
九州大学情報基盤研究開発センターの徳田悟助教、同大学応用力学研究所の稲垣滋教授、同大学大学院総合理工学府の河内裕一氏(博士後期課程3年)、同大学総合理工学研究院の寺坂健一郎助教、日本大学生産工学部の佐々木真助教、島根大学学術研究院理工学系の荒川弘之准教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の山崎広太郎助教らの共同研究グループは、IT分野などで幅広く用いられている「ベイズ推定」という統計学的方法を基礎とし、実験データに対して適切な速度分布関数の理論モデルを選択する新たな解析方法を開発しました。同解析法を直線磁化プラズマ実験装置(PANTA)から得られたデータに適用することで、その有効性を実証しました。本手法は直線磁化プラズマだけでなく様々なプラズマに適用可能であり、天体プラズマや核融合プラズマなどの実験データの解析にも役立つと期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports」に 2021 年 10 月 21日付で掲載されました。
(上)PANTA実験装置
(左下)レーザー誘起蛍光法によるイオン速度分布の計測データ
(右下)理論モデルの候補とデータに対する妥当性を表す確率。結果から3番の理論モデルが妥当であると示された。
謝辞
本研究成果は、日本学術振興会科学研究費補助金若手研究「条件付き独立な観測に基づく統計的推測の理論と実践」(研究代表者:徳田悟)、同補助金特別研究員奨励費「プラズマにおけるイオン/電子温度揺動および揺動駆動熱流束の評価法開発」(研究代表者:河内裕一)、同補助金基盤研究(C)「直線磁化プラズマにおける高次非線形構造形成による輸送ダイナミクスの解明」(研究代表者:荒川弘之)、九州大学応用力学研究所共同利用研究特定研究(分野融合)「定常状態プラズマにおけるイオン速度分布関数のベイズ推定」(研究代表者:徳田悟)、島津科学技術振興財団研究開発助成金「特異値分解とベクトルトモグラフィーを適用したプラズマ乱流パターン観測法の開発」(研究代表者:荒川弘之)の助成により得られました。