Research Results 研究成果
悪性リンパ腫は血液がんの一種であり、多様な病型を持つことが知られています。年々増加傾向にある悪性リンパ腫の中でも、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)は、全体の3〜4割を占め、生命予後の悪い病型として知られています。近年、分子標的薬や免疫療法など様々な治療オプションが登場するなか、治療効果や生命予後を予測することは,最適な治療戦略を立てるために極めて重要な情報となります。しかし、実際の臨床現場で広く使われる予後予測モデルは、DLBCLにおいては確立されていないのが現状です。その大きな要因は、DLBCLが単一の疾患ではなく、多種多様な原因によって引き起こされるリンパ腫の集合であることだと考えられます。
九州大学大学院医学研究院病態修復内科学の赤司浩一教授、宮脇恒太助教らは、腫瘍細胞の周囲に存在する免疫微小環境細胞が、DLBCLの臨床的予後を強力に規定することを明らかにしました。これは、高感度RNA発現定量法を用いて、組織中の少数派である非腫瘍細胞を精確に評価することで明らかになったもので、免疫微小環境の僅かな違いが患者さんの予後を大きく左右することを示しています。これまで、遺伝子変異や蛋白過剰発現などが疾患の悪性度と関連すると報告されていますが、免疫微小環境は、これらの腫瘍細胞のもつ異常を総合的に反映していることが分かりました。
この技術により、多くの検査をしなければ分からなかったDLBCLの悪性度を、微小環境を評価することで簡便に知ることのできる、検査試薬の開発が期待されます。
本研究成果は2021年10月12日に科学雑誌Blood Advancesオンライン版に公開され、近日中に出版予定です。
参考図1
リンパ腫組織の遺伝子発現解析により、組織の予後良好微小環境の豊富さを スコアリングする(DMSスコア)。
参考図2
微小環境に基づくスコアは、腫瘍細胞にまつわる様々な異常と逆相関しながら、強力に予後を規定する。