Research Results 研究成果
九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA) 安達千波矢センター長、公益財団法人福岡県産業・科学技術振興財団 有機光エレクトロニクス実用化開発センター(i3-OPERA) 藤本弘研究室長(九州大学 客員准教授)、公益財団法人九州先端科学技術研究所(ISIT) 八尋正幸研究室長(九州大学 客員教授)の研究グループは、株式会社住化分析センターとの産官学連携の共同研究において、有機EL素子を短時間で製作することにより、素子の耐久性が著しく向上することを見出しました。この原因は、真空蒸着チャンバー内に存在している1分子層にも満たないほどの極微量と推定される不純物が有機半導体材料の蒸着中に混入するためであり、それにより素子劣化が引き起こされることを明らかにしました。本研究では、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)(※1)による精密質量から不純物の構造を解析した結果、一般的に樹脂の添加剤として使用される化合物、過去に蒸着した有機材料やその分解物と思われる化合物等が推定されました。これらはチャンバー内の構成部品や残留物に由来すると推測されます。従来の製造プロセスでは外的劣化要因として主に真空中の水分量を管理してきましたが、この成果により水分量のみならず極微量不純物量や素子製作時間を管理することで、これまで困難であった有機EL素子寿命の再現性の確立に繋がり、今後、様々な有機エレクトロニクス素子の長寿命化や劣化メカニズムの解明に貢献するものと期待されます。
本研究成果は、2016年12月13日(火)午前10時(英国時間)に英国国際学術誌Nature姉妹紙のオンラインジャーナルである『Scientific Reports』に掲載されました。
左:デバイス製作時間と素子寿命(上)と不純物量(下)
右:真空チャンバー内の不純物のイメージ
(a) 製作した有機EL素子の発光効率(外部量子効率)と寿命を時系列順に並べたもの。 (b) 素子製作時間と寿命の関係。
左上:有機EL素子の寿命測定
左下:有機EL素子の製作時間と素子寿命
右:真空チャンバー内に浮遊する不純物のイメージ
真空は清浄な空間を形成するために、オイルフリーの真空ポンプや洗浄工程が研究・開発されてきました。しかしながら、有機材料は室温でもチャンバー内を浮遊し、自らが素子劣化の原因となることが分かりました。本知見が有機エレクトロニクスの発展に貢献できれば幸いです。(藤本)