Research Results 研究成果

3つの上皮細胞の間にできる隙間を閉じる仕組みの解明

~慢性炎症疾患に対する新たな予防法や治療法に期待~ 2022.02.17
研究成果Life & Health

  1. 皮膚などの上皮細胞シートは外界からの異物の侵入を防ぐバリアとして機能しますが、上皮細胞シートには3つの細胞が接する領域に隙間が存在し、バリアの弱点となっています。
  2. 本研究で、トリセルリンというタンパク質が、アクチン細胞骨格と結合し、その収縮力を利用して、3つの細胞の間の隙間を小さく保つ役割を担っていることを明らかにしました。
  3. 3つの細胞に生じる隙間を閉じる仕組みが解明されて、人為的に制御することができるようになると、慢性炎症などの病態に対する新たな予防法や治療法の開発につながります。

 私たちの体の表面や器官の表面は上皮細胞と呼ばれる細胞のシートによって覆われています。上皮細胞シートは、外界からの異物の侵入を防ぐバリアとして機能します。上皮細胞同士は、隣り合う細胞同士が互いのクローディンと呼ばれる細胞接着分子を介して、ちょうど握手をするようにして強固に結合しています。一方で細胞のシートの中には、3つの細胞が接する点が多数存在します。3人で同時に握手ができないのと同様に、3つの細胞は同時には接着できないため、必ず小さな隙間が生じます。このような3つの細胞間の隙間が大きくなると、病原体などの異物が体内に侵入したり、体内の水分が体の外に出て行ってしまったりするため、3つの細胞間に生じる隙間はできる限り小さくする保つ必要があります。このような3つの細胞の隙間を形成するために必要なタンパク質としてトリセルリンという分子が知られていましたが、その詳細な機能はわかっていませんでした。
 今回、九州大学大学院理学研究院の池ノ内順一教授、同大学大学院システム生命科学府一貫制博士課程の長佑磨大学院生らの研究グループは、トリセルリンが、細胞のアクチン細胞骨格と結合し、その収縮力を利用して、隙間を小さく保つ役割を担っていることを明らかにしました。本研究において、研究グループは、3つの細胞が接着する領域において2つの細胞間の接着面に由来するアクチン線維同士が交叉するように走行していることを見出しました。この交叉する領域に集積したミオシンがアクチン線維同士を滑りこませることで、靴紐を締めるように、3つの細胞が接着する領域にアクチン線維を引っ張ります。トリセルリンがこのアクトミオシン骨格と相互作用することによって、トリセルリンと共に接着構造を形成するクローディンが3つの細胞接着領域に引き寄せされるため、3つの細胞間に生じる隙間が小さく保たれていることが明らかになりました。
 上皮細胞シートのバリア機能の破綻は、アトピー性皮膚炎や炎症性腸疾患などの慢性炎症を引き起こすことが明らかになっており、今回の発見は慢性炎症疾患に対する新たな予防法や治療法を開発する上で基礎となる知見です。
 本研究成果は、2022 年 2月 11 日(金)午後 6 時(日本時間)に米国科学雑誌『Journal of Cell Biology』に掲載されました。

トリセルリンを欠損した上皮細胞シートでは3つの細胞の間に大きな隙間が形成される様子が観察されます(矢印)

トリセルリンは、3つの上皮細胞が接する接着領域にのみに局在する膜タンパク質ですが、その機能は長らく不明でした。トリセルリンは、3細胞領域に形成される交叉するアクチン線維と相互作用することによって、クローディンによる細胞接着構造を近接させて、隙間を小さく保っていることが明らかになりました。

研究者からひとこと
トリセルリンは池ノ内が今から17年前に大学院生の時に発見したタンパク質ですが、その機能は長らく不明でした。今回、大学院生の長佑磨君の手によって、その機能の一端が明らかになり、大変嬉しく思います。画像データの解析では、システム情報科学研究院の内田誠一先生、原口大地さんにご協力いただきました。

論文情報

タイトル: Tricellulin secures the epithelial barrier at tricellular junctions by interacting with actomyosin
著者名: Yuma Cho, Daichi Haraguchi, Kenta Shigetomi, Kenji Matsuzawa, Seiichi Uchida, Junichi Ikenouchi
掲載誌: Journal of Cell Biology
DOI: 10.1083/jcb.202009037   

研究に関するお問い合わせ先

理学研究院 池ノ内 順一 教授