Research Results 研究成果

遺伝性疾患の原因となる変異を新たに約4,000個発見

~希少疾患の診断率向上や創薬に期待~ 2022.03.22
研究成果Life & Health
  1. 遺伝性疾患にはまだ発症原因となる変異がわかっていないものが多く存在します。
  2. これまで注目されてこなかったゲノム領域での変異に焦点を当てることで、様々な遺伝性疾患について、その原因になると考えられる変異を約4,000個同定することに成功しました。
  3. 希少疾患の診断率向上や、これらの変異をターゲットにした核酸医薬品による治療への応用が期待されます。

 遺伝性疾患はゲノムの特定の場所の変異によって起こります。特にゲノム中で重要な機能を担っている部分を壊す変異が原因となることが多く、様々な遺伝性疾患について原因変異が多数同定されてきました。しかし、明らかに遺伝性疾患の症状を呈する患者さんのゲノムを調べても、原因となる変異が見つかる確率は50%ほどしかなく、診断率が低いことが問題になっていました。
 九州大学生体防御医学研究所の須山幹太教授と同大学大学院システム生命科学府の坂口愛美大学院生は、この問題を解決するため、これまで注目されてこなかった「機能を担っていないゲノム領域」に焦点を当て、そこに余計な機能を作り出す変異の探索を情報解析技術を駆使して行いました。その結果、遺伝性疾患との関連が知られている約4,000個の遺伝子内に、これまで知られていなかった3,942個もの原因候補変異を同定することに成功しました。一度にこれほど多くの変異が報告されるのは初めてです。
 今回の成果は、遺伝性の希少疾患の診断率向上に貢献するとともに、これらの変異をターゲットにした核酸医薬品による治療の可能性につながるものです。
 本研究成果は、2022年3月18日に英国の国際学術誌「npj Genomic Medicine」にオンライン掲載されました。

左は正常な遺伝子。中央はこれまでに見つかってきた疾患原因変異(赤色)。右は今回新たに発見した変異。遺伝子の長さの変化(黄色)により本来の機能を損なう。

研究者からひとこと
遺伝性疾患の多くは患者数が少ない希少疾患で、そのほとんどがいわゆる難病と呼ばれるものです。希少であるため診断がつきにくく、患者さんはいくつもの病院を受診せざるを得ないことも少なくありません。また、患者数が極端に少ないため、製薬企業にとっては創薬の対象になり難いものです。これらの疾患に対し、さらなる診断率の向上や薬の開発に役立つ成果が得られるよう、今後も研究を進めます。

論文情報

タイトル: Pervasive occurrence of splice-site-creating mutations and their possible involvement in genetic disorder 
著者名: Narumi Sakaguchi and Mikita Suyama
掲載誌: npj Genomic Medicine (Nature Publishing Group)
DOI: 10.1038/s41525-022-00294-0     

研究に関するお問い合わせ先

生体防御医学研究所 須山 幹太 教授