Research Results 研究成果

世界初、ミュオグラフィによる気象津波の観測

2022.04.14
研究成果Physics & ChemistryTechnology

ポイント

  • HKMSDDと呼ばれる海底ミュオグラフィセンサーアレイ(注1)を用いて2021年台風16号通過に伴う、東京湾における気象津波(注2)の観測に世界で初めて成功した。
  • ミュオグラフィ(注3)が海洋現象の観測に用いられたのは、今回が初めてである。
  • HKMSDDを世界各国の海底トンネルに実装することにより、グローバルな気象津波の理解につながると期待される。

概要

 東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構は、同大学生産技術研究所、大気海洋研究所、大学院新領域創成科学研究科、および九州大学、日本電気株式会社、英国シェフィールド大学、英国ダラム大学、英国科学技術施設会議ボルビー地下実験施設、イタリア原子核物理学研究所、イタリアサレルノ大学、イタリアカターニャ大学、ハンガリーウィグナー物理学研究センター、チリアタカマ大学、フィンランドオウル大学Kerttu Saalasti研究所と共同で、世界初となる海底ミュオグラフィセンサーアレイ(HKMSDD:Hyper KiloMetric Submarine Deep Detector)の一部を東京湾アクアライン海底トンネル内部に設置し、この東京湾海底(Tokyo-Bay Seafloor)HKMSDD(TS-HKMSDD)を用いて、東京湾の連続ミュオグラフィ観測を進めている。この度、2021年台風16号通過に伴う、東京湾における気象津波の観測に世界で初めて成功した。

 ミュオグラフィは、宇宙に由来する高エネルギー素粒子ミュオン(注4)を用いて巨大物体を透視する技術である。これまで火山、原発、ピラミッドなどの透視に成果を上げているが、海洋現象の観測に用いられたのは、今回が初めてである。

 気象津波のメカニズムは完全には解明されておらず、将来、ミュオグラフィセンサーアレイを世界各国の海底トンネルに実装することにより、検潮所以外での津波データを取得できるようになり、今後一層のメカニズム解明が期待される。

東京湾アクアラインの写真並びに今回設置したTS-HKMSDDの位置 (© 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix)。 Muと示された部分がTS-HKMSDDの一部が設置された場所を示す。

用語解説

(注1)海底ミュオグラフィセンサーアレイ(HKMSDD)

素粒子ミュオン(注4)を検知できるミュオグラフィセンサーモジュールを一定の間隔に配置したもの。ミュオンが検知されるたびHKMSDDの中央に位置するデータ収集センターに信号が集められ、記録される。今回、東京湾アクアライン海底トンネル内部の100 mにわたり設置されたが、今後さらなる拡張や北海、英仏海峡、フィンランド湾など東京湾以外における設置が計画されている。

(注2)気象津波

気象津波、あるいはメテオ津波と呼ばれる現象は本質的には地震活動に伴う津波と同じであるが、その成因を大気擾乱とするところが異なり、その振動周期は数分から数時間まで様々である。気象津波は半分閉じた湾や完全に閉じた湖などで発生することが多いが、英仏海峡など海の狭窄部でもその発生が報告されている。気象津波は前線や台風の通過に伴い、発生することが多いが、今年1月に発生したトンガ噴火では、気象津波の影響により想定より早く我が国に津波が到来した。この際、空振が気象津波を引き起こしたとされている。

(注3)ミュオグラフィ 

ミュオン(注4)の強い貫通力(岩盤で1km以上)を用いるレントゲン写真撮影法。医用のレントゲン写真ではX線を利用するが、これはX線の透過力が人体程度であることを利用している。ミュオンの透過力が海洋の深さ程度のオーダーであることからミュオグラフィを利用して海のレントゲン写真を撮影可能である。

(注4)ミュオン 

主に超新星などの銀河系の高エネルギーイベントによって光速まで加速される宇宙線と呼ばれる粒子が地球に到達すると、大気を構成する窒素や酸素の原子核と反応して高エネルギーの二次粒子生成する。その一つがミュオンと呼ばれる素粒子であり、貫通力が強い。

論文情報

雑誌名:Scientific Reports(4月12日付)

タイトル:Periodic sea-level oscillation in Tokyo Bay detected with the Tokyo-Bay Seafloor Hyper-Kilometric Submarine Deep Detector (TS-HKMSDD)

著者:Hiroyuki K. M.Tanaka*, Masaatsu Aichi, Szabolcs József Balogh, Cristiano Bozza, Rosa Coniglione, Jon Gluyas, Naoto Hayashi, Marko Holma, Jari Joutsenvaara, Osamu Kamoshida, Yasuhiro Kato, Tadahiro Kin, Pasi Kuusiniemi, Giovanni Leone, Domenico Lo Presti, Jun Matsushima, Hideaki Miyamoto, Hirohisa Mori, Yukihiro Nomura, Naoya Okamoto, László Oláh, Sara Steigerwald, Kenji Shimazoe, Kenji Sumiya, Hiroyuki Takahashi, Lee F. Thompson, Tomochika Tokunaga, YusukeYokota, Sean Paling & Dezső Varga

DOI番号:10.1038/s41598-022-10078-2

研究に関するお問い合わせ先