Research Results 研究成果
概要
次世代自動車用鋼板として用いられ始めているTRIP鋼は、外⼒が加わると⾦属組織の構造が変化する「相変態」というユニークな特徴を持っています。これは、フェライトに残留オーステナイトと呼ばれる準安定相を数⼗%分散させたもので、外⼒がかかると軟質な残留オーステナイトが硬いマルテンサイトに相変態するものです。しかしながら、この相変態は、研磨や切削でも容易に起こってしまうことから、TRIP鋼の相変態の様子を観察・解析するには非破壊で行うことが必須となります。
京都大学大学院工学研究科 平山恭介 助教と九州大学大学院工学研究院 戸田裕之 教授の研究グループは、高輝度光科学研究センターの竹内晃久 主幹研究員、上椙真之 同主幹研究員と共同で、大型放射光施設SPring-8において、非破壊でTRIP鋼の相変態挙動を直接可視化できるX線ナノトモグラフィー技術と結晶方位や転位密度を測定可能なペンシルビーム回折トモグラフィーを組み合わせたマルチモーダル解析技術を開発しました。本研究では、外部負荷中の鋼材のその場観察に本技術を初めて適用し、その結果、個々のオーステナイト粒の相変態、変形、回転挙動を3次元的に明瞭に観察することができました。以前は鋼材の比較的広い領域の平均的な情報しか得られないために、最適なミクロ組織の設計指針を得ることは不可能でしたが、本研究により、個々の残留オーステナイト間の相互作⽤が直接可視化され、ミクロ組織設計の明瞭な指針が得られました。
本成果は、2022年4月17日に英国の国際学術誌「Acta Materialia」にオンライン掲載されました。
残留オーステナイトの3D像。左図の3D像では、残留オーステナイトの結晶方位を色で表しています。右図は青丸で囲まれた残留オーステナイトの負荷増大による変態の様子を3D像で表しています。同時に同じ負荷段階のある断層像における変態の様子も示しています。残留オーステナイトは、一様に変態するのではなく、局所的に変態することがわかります。
論文情報
タイトル:Multimodal assessment of mechanically induced transformation in metastable multi-phase steel using X-ray nano-tomography and pencil-beam diffraction tomography(X線ナノトモグラフィーとペンシルビームX線回折による準安定2相鋼における加工誘起変態のマルチモーダル解析)
著 者:Hiroyuki Toda, Kyosuke Hirayama, Kai Okamura, Takafumi Suzuki, Akihisa Takeuchi, Masayuki Uesugi and Hiro Fujihara
掲 載 誌:Acta Materialia
DOI:https://doi.org/10.1016/j.actamat.2022.117956
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