Research Results 研究成果

Beyond 5G世代向け超小型発振器の設計指針を確立

~スピントロニクス技術で小型、周波数可変、室温動作可能なミリ波発振器を実現~ 2022.07.19
研究成果Physics & ChemistryMaterials

ポイント

  • Aナノサイズ、周波数可変、室温動作度差可能なミリ波帯スピントルク発振器の数値シミュレーションを実演
  • 磁性体のスピントルク発振に層間磁気結合を取り入れ、周波数約25~570 GHzの高周波発振を数値シミュレーションで実証した。
  • Beyond 5Gや車載レーダーなどへ向けたミリ波スピントルク発振器の研究開発の加速が期待される。

概要

 電流中の電子のスピン角運動量 ※1を用いて磁性体の磁化を発振させるスピントルク発振器は次世代のマイクロ波・ミリ波発生器の候補技術として注目を集めています。スピントルク発振器は約100ナノメートルまで小型化でき、電流の大きさで周波数の操作が可能で、室温で使用することができるという利点を持ちます。一方で、数100 GHzの周波数まで発振させようとすると巨大な外部磁場が必要となり、発振器全体が大型化してしまう問題がありました。

 九州大学大学院システム情報科学研究院の黒川雄一郎助教、岐阜大学工学部の山田啓介助教、産業総合研究所の谷口知大上級主任研究員の研究グループ ※2は、層間磁気結合 ※3による巨大な内部磁場を利用することで、無磁場で動作する周波数可変なスピントルク発振器が実現できることを計算機シミュレーションと理論的解析によって実証しました。さらに、層間磁気結合の強さを表すパラメータを網羅的に変化させたことで、約25-570 GHzというこれまで例を見ない超広域で周波数可変なスピントルク発振器の設計指針を得ることに成功しました。

 30-300 GHz帯の周波数を持つ電波はミリ波と呼ばれ、Beyond 5G ※4や車載レーダーでの利用が期待されています。今回設計したスピントルク発振器はミリ波の周波数帯を完全にカバーしており、次世代のミリ波帯小型発振器の実現へ向けた大きな一歩になると考えられます。

 本研究成果は英国の雑誌「Scientific Reports」に2022年7月19日(火)に掲載されました。

スピントルク発振器では電子のスピン角運動量を電流によって磁性体の磁化へ受け渡すことにより磁化の振動を誘起することが可能です。従来は大きな外部磁場を印加しなければミリ波発振は実現できませんでした。本研究では内部の有効磁場を増強することに着目し、強い層間磁気結合を利用することで、外から印加する磁場が無い環境で実現しました。

用語解説

(※1) スピン角運動量
電子がもつ量子的な回転運動量で、磁性の起源となる量

(※2) 研究グループ
本論文著者 (全員)
九州大学大学院システム情報科学研究院: 黒川雄一郎(助教)、田中輝光(准教授)、湯浅裕美(教授)
九州大学大学院システム情報学府: 堀池周(大学院生:当時)
岐阜大学工学部: 山田啓介(助教)
産業総合研究所: 谷口知大(上級主任研究員)

(※3) 層間磁気結合
2つの磁性体を非磁性体で挟み込んだ形で発現する結合であり、二つの磁性層の磁化を特定の方向へ向ける内部磁場を発生させる。層間磁気結合は主に二種類あり、一つ目の結合は二つの磁性層の磁化を平行、または反平行になるように結合する。二つ目の結合は二つの磁性層の磁化を互いに90度方向、または平行、反平行になるように結合する。 

(※4) Beyond 5G
現在、携帯電話等の情報端末で実用化されつつある第5世代移動通信システム(5G)の、さらに次の世代の移動通信システム。

論文情報

掲載誌:Scientific Reports

タイトル:Ultra-wide-band millimeter-wave generator using spin torque oscillator with strong interlayer exchange couplings

著者名:Yuichiro Kurokawa, Keisuke Yamada, Tomohiro Taniguchi, Shu Horiike, Terumitsu Tanaka, and Hiromi Yuasa

DOI:10.1038/s41598-022-15014-y

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