Research Results 研究成果
ポイント
概要
アトピー性皮膚炎は我が国の約50万人が罹患している国民病です。重症度の高い患者さんでは、激しい痒みに伴って生活の質が著しく損なわれるため、痒みのメカニズム解明は急務となっています。IL-31(インターロイキン31, ※1)はアトピー性皮膚炎の発症に重要な痒み誘発物質であり、その産生レベルはアトピー性皮膚炎の重症度と相関することが知られていますが、その個人差を生み出す原因についてはよく分かっていませんでした。
今回、九州大学生体防御医学研究所の福井宣規 主幹教授、國村和史 助教の研究グループは、同大学大学院医学研究院 皮膚科学分野の中原剛士 教授および山村和彦 助教の研究グループとの共同研究により、DOCK8という遺伝子に注目することでアトピー性皮膚炎の発症および重症化に関わる機能的な遺伝子多型が存在することを発見しました。
研究グループはこれまで、DOCK8分子を欠損したヒトやマウスにおいてIL-31の産生が著しく亢進すること、IL-31の発現調節には転写因子(※2)であるEPAS1の核移行が重要であることを明らかにしてきました。しかし、アトピー性皮膚炎の発症や重症化の素因とDOCK8の遺伝子多型との関連性には謎が残されていました。そこで私たちは、日本人のアトピー性皮膚炎患者と健常人を対象に、DOCK8の全エキソン(48個)におけるゲノム配列を解読することで、アトピー性皮膚炎の発症に関わる一塩基多型(※3)、rs17673268を同定しました。同部位の塩基はほとんどの人がシトシン(C)ですが、アトピー性皮膚炎患者ではチミン(T)に置き換わる頻度が有意に高くなっていました。また、アトピー性皮膚炎患者群の中でこの多型を比較したところ、CCよりもTT遺伝子型で皮膚炎が重症化していました。さらに、この一塩基の置換はアミノ酸置換(ミスセンス変異)をもたらしますが、各々の点変異体を発現させた細胞株を用いた実験により、TT遺伝子型ではEPAS1の核移行が亢進することが明らかになりました。
以上のことから、今回発見したDOCK8遺伝子多型がアトピー性皮膚炎の素因や重症化リスクに関連する機能的な遺伝子多型であることが分かりました。さらなる検証により、IL-31をターゲットにした治療反応性の予測や患者層別化への応用も期待されます。
本研究成果は、2022年07月16日(土)午後2時(日本時間)に欧州の雑誌「Allergy」のオンラインサイトに掲載されました。
用語解説
(※1)インターロイキン31
皮膚や血中に存在するT細胞から主に産生・分泌されるサイトカインの一種。皮膚の末梢神経で発現するIL-31受容体に結合することでシグナルが伝達され、痒み感覚を引き起こす。
(※2)転写因子
DNAに特異的に結合し、DNAの遺伝情報をmRNAへと転写する過程を促進(あるいは抑制)するタンパク質。単独または他のタンパク質と複合体を形成することでこの機能が発揮される。
(※3)一塩基多型
個人間でゲノムの一塩基が異なる状態で、特に変異が集団内において一定以上の頻度で存在するものを一塩基多型(SNP; スニップ)と呼ぶ。体質の違いやある特定の病気へのかかりやすさなどの個人差を生み出す要因になっているとされる。
タイトル: | Identification of a functional DOCK8 gene polymorphism associated with atopic dermatitis |
著者名: |
Kazufumi Kunimura, Kazuhiko Yamamura, Takeshi Nakahara, Makiko Kido-Nakahara,Takehito Uruno, Yoshinori Fukui |
掲載誌: | Allergy |
DOI: | 10.1111/all.15429 |