Research Results 研究成果
ポイント
概要
私達の体を構成している細胞ひとつひとつには、A,C,G,Tの4種類の文字で構成された文字列がゲノムDNAとして保管されています。この文字は塩基と呼ばれ、その並び(配列)はヒトの体を構成するために必要な情報になります。細胞は、ゲノムから配列をコピーしA,C,G,Uの4つの塩基で構成されたRNAを作りだします。そこから生産されるタンパク質が正確に機能することで細胞は正常に活動できます。しかし、文字列が書き換わる(変異)と様々な病気を発症します。そのような病気を治療するためには、ゲノムあるいはRNA上で文字列を変更する技術が必要となります。これまでの技術では、RNA配列の”C”を”U”、あるいは”A”を”G”に書き換える(以下、編集技術)ことしか出来ませんでしたが、病気の原因となる変異は多様なため、他の方向への編集技術が望まれています。本研究では植物細胞のRNA編集メカニズムに着目し、これまでに無かった”U”から”C”へ編集する技術を開発し、それがヒト細胞でも機能することを実証しました。
九州大学大学院農学研究院の中村崇裕教授とエディットフォース株式会社の一瀬瑞穂、Bernard Gutmann、八木祐介らとの共同研究グループは、植物細胞においてRNAの塩基編集を司っているPPR(Pentatricopeptide repeat)タンパク質に着目し、”U”を”C”に編集する人工PPRタンパク質をデザインしました。さらに、PPRタンパク質を改良し、大腸菌、ヒト細胞で任意のRNA配列上の”U”を”C”に編集できることを実証しました。この技術を応用すれば、希望する位置の塩基配列を狙って編集することが可能になるため、例えばCからU(T)の1塩基変異が原因である病気に対して人工のPPRタンパク質を設計し効果を実証することができれば、新しい遺伝子治療方法になると期待されます。
本研究成果は、2022年9月15日に科学雑誌Communications Biologyに掲載されました。
用語解説
(※1) ゲノム編集技術
生物のゲノム配列を直接改変する技術。ゲノム編集技術のひとつであるCRISPR-Cas9技術の開発者が2020年ノーベル化学賞を受賞している。
論文情報
掲載誌:Communications Biology
タイトル:U-to-C RNA editing by synthetic PPR-DYW proteins in bacteria and human culture cells
著者名:Mizuho Ichinose, Masuyo Kawabata, Yumi Akaiwa, Yasuka Shimajiri, Izumi Nakamura, Takayuki Tamai, Takahiro Nakamura, Yusuke Yagi & Bernard Gutmann
DOI:10.1038/s42003-022-03927-3
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