Research Results 研究成果

「二次代謝物シデロフォアによる分裂酵母の適応生育と一次代謝への影響」

2022.10.27
研究成果Physics & Chemistry

ポイント

  • 分裂酵母が示す適応生育の誘導分子の一つとしてシデロフォアであるフェリクロームを同定しました。
  • フェリクロームの適応生育に重要なアミノ酸輸送体Cat1を同定しました。
  • 二次代謝物であるシデロフォアによる一次代謝の制御という新たな現象を見出したことにより、本分子の未解明な細胞内機能の解明が期待されます。

概要

 微生物は細胞間でコミュニケーションをすることでその生息環境を構築・維持しています。しかし細胞間のコミュニケーションには未解明な点が多く、例えばそこでは多様な代謝物が介在すると想定されていますが、これまでに理解されているのはそのごく一部です。東京大学大学院農学生命科学研究科のPo-Chang Chiu研究生、西村慎一講師、吉田稔教授らのグループは、理化学研究所および九州大学のグループと共同研究を行い、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeが示す適応生育現象(注1)は「フェリクローム」と呼ばれる鉄にキレートする分子(シデロフォア_注2)により誘導されることを明らかにしました。この適応生育にはアミノ酸輸送体Cat1(注3)が必要であり、二次代謝物であるフェリクロームがアミノ酸代謝を制御する可能性が示唆されました。フェリクロームは1952年に単離されて以来、鉄に強力に結合するという分子機能は明らかですが、生理機能はほとんど不明のままです。本研究はフェリクロームが窒素代謝を制御し細胞間コミュニケーションで機能するという新しい生物活性を明らかにしており、本代謝物の知られざる生理機能を解明するきっかけになると考えています。

適応生育現象の観察(左)とモデル図(右)

用語解説

注1)適応生育現象:生物はそれぞれの生息環境に適応して生存しており、本研究ではストレスの高い環境に適応して示す生育を指す。特に、変異株が野生株と共存することにより環境に適応する現象を研究対象としている。
注2)シデロフォア:微生物や植物が産生・分泌する鉄にキレートする低分子化合物。アミノ酸や有機酸などの一次代謝物をくみあわせて合成される二次代謝物の一種である。細胞外からの鉄の取り込みや細胞内の鉄の貯蔵や隔離に機能することが知られているが、細胞内での代謝・分解や生理機能について詳細は未解明である。
注3)アミノ酸輸送体:アミノ酸を輸送する膜タンパク質。細胞の外から内へ取り込む輸送体や、細胞内小器官の内外に輸送するものがある。
注4)窒素カタボライト抑制:利用しやすい窒素源(アンモニウムやグルタミン酸など)を優先的に取り込み代謝し、利用しにくい窒素源(分岐鎖アミノ酸など)の取り込みや代謝を抑制する現象・機構を指す。利用しやすい窒素源が存在する環境に速やかに適応する機構である。

論文情報

雑誌名:「Scientific Reports」(オンライン版:10月27日)
論文タイトル:Ferrichrome, a fungal-type siderophore, confers high ammonium tolerance to fission yeast.
著者:Po-Chang Chiu, Yuri Nakamura, Shinichi Nishimura*, Toshitsugu Tabuchi, Yoko Yashiroda, Go Hirai, Akihisa Matsuyama, and Minoru Yoshida*(*責任著者)
DOI:10.1038/s41598-022-22108-0

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