Research Results 研究成果

世界⼀包括的な代謝物測定法の開発に成功

〜ワンショットで親⽔性代謝物を⾼感度かつ網羅的に測定!メタボロミクスに⾰新!〜 2022.11.29
研究成果Life & HealthTechnology

ポイント

  • 代謝物は疾患と密接に関わるため健康状態を把握するのに有益な指標になります。
  • これまで⾼感度にかつ網羅的にメタボロームを測定する⽅法はありませんでした。
  • メタボロームをワンショットで測定する⾰新的な分析⼿法の開発に成功しました。
  • 今後、様々な疾患メカニズムを解き明かす新規ツールとしての応⽤が期待されます。

概要

 タンパク質を構成するアミノ酸や、DNA を構成するATP などのヌクレオチドに代表される⽣体中の代謝物の総体をメタボロームと呼びます。メタボロームの中には様々な疾患と密接に関わるものが数多く⾒つかっており、これら数千にも及ぶ代謝物を⼀⻫計測することのできる分析⼿法が待望されていました。
 九州⼤学⽣体防御医学研究所の⾺場健史教授、和泉⾃泰准教授、中⾕航太学術研究員、髙橋政友助教の研究グループは、代謝物の極性と電荷特性 (陰イオン性、陽イオン性、両イオン性、⾮荷電) の違いを利⽤したunified-HILIC/AEX という新規分離戦略を⽤いることで、ワンショットで親⽔性メタボロームを⾼感度かつ網羅的に測定する⽅法を開発することに成功しました。
 本研究で開発した分析法では、液体クロマトグラフィー (※1) によりメタボロームを分離し、分離した代謝物を質量分析 (※2) で⾼感度に検出します。この液体クロマトグラフィーでの合理的かつ効率的な分離のために、当該研究グループでは独⾃の分離カラムを作製し、新しいunified-HILIC/AEX/MS という分離・検出⼿法を開発しました。
 Unified-HILIC/AEX/MS は、極性の違いにより陽イオン性、両イオン性、⾮荷電の親⽔性代謝物を分離分析する親⽔性相互作⽤クロマトグラフィー (HILIC ※3) からまず始まり、次いでイオン強度の違いにより陰イオン性の代謝物を分離する陰イオン交換クロマトグラフィー (AEX ※4 ) を連続で⾏い、最終的にクロマト分離した幅広い代謝物をMS にて⾼感度検出・定量可能です。これまで世界で頻⽤されている代謝物測定法と⽐較すると、本⼿法では約2 倍の情報量が得られることが分かりました。今後、本⼿法は世界各国で汎⽤されている代謝計測を⼀新し、様々な疾患メカニズムを解き明かす新規ツールとして応⽤されることが期待されます。
 本研究成果は、⽶国の国際科学誌「Analytical Chemistry」に2022 年11 ⽉25 ⽇(⾦)に掲載されました。

Unified-HILIC/AEX による分離⼿法の概要。分析前半 (左) では陰 イオンを固定相に吸着させておきながら、その他の陽イオン、両性イオン、 ⾮荷電分⼦を測定。分析後半 (右) では吸着させておいた陰イオンを測定。

用語解説

(※1)液体クロマトグラフィー
化合物を分離する⼿法。移動相として⽔や有機溶媒などの液体を使⽤する。測定試料は移動相と⼀緒にカラム内をとおり、カラム内の固定相と相互作⽤をしながら分離される。相互作⽤の強さにより化合物が溶出する時間が異なるため、この溶出時間を特定の化合物の同定に使⽤することができる。
(※2)質量分析
分⼦をイオン化し、⾶⾏しているイオンの質量電荷⽐ (質量数÷電荷数) を電気的・磁気的な作⽤によって分離し、検出する分析⽅法。
(※3)HILIC
液体クロマトグラフィーにおいて、相互作⽤の種類によって分離モードの呼称が異なる。親⽔性相互作⽤を利⽤して化合物を分離する⽅法を親⽔性相互作⽤クロマトグラフィー(Hydrophilic interaction chromatography, HILIC) と呼ぶ。
(※4)AEX
液体クロマトグラフィーのうち、相互作⽤がイオン性相互作⽤によるものをイオンクロマトグラフィーと呼ぶ。特に、陰イオンが分析対象の場合は、陰イオン交換クロマトグラフィー (Anion exchange chromatography, AEX) と呼ぶ。

論文情報

掲載誌: Analytical Chemistry
タイトル: Unified-hydrophilic-interaction/anion-exchange liquid chromatography mass spectrometry (unified-HILIC/AEX/MS): A single-run method for comprehensive and simultaneous analysis of polar metabolome
著者名: Kohta Nakatani, Yoshihiro Izumi*, Masatomo Takahashi, Takeshi Bamba*. (*Cocorresponding author)
DOI: 10.1021/acs.analchem.2c03986

左から⾺場健史教授、中⾕航太学術研究員、和泉⾃泰准教授、髙橋政友助教