Research Results 研究成果

細胞の⾎⾏性転移の新たな仕組みを発⾒

世界初、新たながん転移抑⽌戦略の開発にも期待 2022.12.13
研究成果Life & HealthPhysics & Chemistry

ポイント

  • がん疾患を最も⾼い死因に押し上げている要因は、がん細胞が転移を⾏うという性質。⾎管中のがん細胞の多くがどうして⽑細⾎管から⾎管外へと遊出するかが不明だった。
  • 転移細胞が⾎管外に遊出するためには、はじめに細胞が⾃⾝の硬さを利⽤して⽑細⾎管に「挟まる(つまる)」ことで⾎管にとどまる必要があることを世界で初めて発⾒。
  • 細胞の硬さを操作対象とする、がん細胞転移の新たな抑⽌戦略につながることが期待。

概要

 がんが⼈類最⼤の死因である原因は、がん細胞は⾎管を移動路として使⽤して活動の場を全⾝に広げる、いわゆる「⾎⾏性転移(以降、転移)(※1)」を⾏う性質によるものです。⾎液中を循環するがん細胞の多くは⽑細⾎管から⾎管の外へと遊出することは知られていましたが、⽑細⾎管からの遊出が起こりやすい原因についてはあまりわかっておらず、その仕組みの解明が望まれていました。
 今回、⾎中を流れる細胞が⾎管の外への遊出を⾏うために、⽑細⾎管のところで「ブレーキ」をかける新たな転移の仕組みを解明しました。
 九州⼤学⼤学院理学研究院の齋藤⼤介教授、寺本孝⾏准教授の研究グループは、京都⼤学の⾼橋淑⼦教授、東北⼤学の⽥村宏治教授と船本健⼀准教授、名古屋⼤学の宮⽥卓樹教授、東京農⼯⼤学の吉野⼤輔准教授、岡⼭理科⼤学の⽥所⻯介准教授、明海⼤学の⻑坂新助教、同志社⼤学の城所⽐奈⼦助教との共同研究で、転移する細胞モデルとしてニワトリ胚の⽣殖細胞を⽤いた解析を⾏い、転移細胞が⾎中で硬くなることで細い⾎管に「挟まって(つまって)」しまうことを世界で初めて明らかにしました。すなわち、細胞が⾎管の外に遊出する場所を確保するために、細胞が⾃⾝の「硬さ」を「ブレーキ」として⽤いていることを突き⽌めたわけです。
 今回の発⾒は、細胞の硬さを操作対象とする、がん細胞転移の新たな抑⽌戦略につながることが期待されます。
 本研究成果は⽶国の雑誌「iScience」に2022年11⽉28⽇(⽉)に掲載されました。

転移可能な細胞では細胞膜直下に繊維状アクチンが発達しており、このため⾼弾性である(硬い)。この硬さゆえに細い流路 (⽑細⾎管)にて「挟まって」移動を停⽌する。停⽌した細胞はこの⾎管領域から遊出する(上図)。⼀⽅で繊維状アクチン 形成を阻害した場合、細胞は柔らかくなり⽑細⾎管にて「挟まる」ことができなくなり、結果として⾎管外遊出ができない。

用語解説

(※1) ⾎⾏性転移
がん細胞などが⾎管へ侵⼊し、⾎流循環に乗って遠隔まで移動し、⾎管の外に遊出するプロセスを含む細胞移動
(※2) ⽣殖細胞
精⼦や卵、それらの元となる細胞。胚の時期の⽣殖細胞は始原⽣殖細胞と呼ばれる。始原⽣殖細胞は胚の外で⽣まれ、発⽣の間に体内に作られる⽣殖腺まで移動する。⿃類の場合、その移動路として胚の⾎管も利⽤している。
(※3) タイムラプス解析
画像ではなく映像を取得する解析。⽣きている個体や細胞の動きを解析する上で効果的。
(※4) 原⼦間⼒顕微鏡
操作型プローブ顕微鏡の⼀種。顕微鏡に付属したプローブを物体に押し込む解析を⾏うことで、物体の弾性測定に応⽤できる。今回はプローブで細胞を押し込んでいる。
(※5)アクチン
細胞⾻格と呼ばれる、細胞の構造を⽀えるタンパク質の⼀種。
(※6)マイクロ流路デバイス
透明なシリコン等で形成された⼈⼯⽔路。今回は⽑細⾎管を模して10μm 幅の流路を設計し、その中を実際の⾎流と同じ速度で細胞を流して解析を⾏なった。

論文情報

掲載誌:iScience
タイトル:Stiffness of primordial germ cells is required for their extravasation in avian embryos
著者名:Daisuke Saito, Ryosuke Tadokoro, Arata Nagasaka, Daisuke Yoshino, Takayuki Teramoto,Kanta Mizumoto, Kenichi Funamoto, Hinako Kidokoro, Takaki Miyata, Koji Tamura and Yoshiko
Takahashi.
D O I :10.1016/j.isci.2022.105629

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