Research Results 研究成果

鉛を使わなくても優れた強誘電性・圧電性が得られる セラミックス材料の設計指針を提案

~ビスマスイオンを含むナノドメインの導入~ 2023.02.09
研究成果Technology

ポイント

  • チタン酸バリウムとビスマスフェライトを固溶させて合成した非鉛系圧電セラミックス材料がこれまで明らかになっていない新しい物理的起源により優れた強誘電性と圧電性を示すことを発見。
  • 一見して立方晶に見える結晶において、ビスマスイオンに原子配置に関する構造乱れがあり、それらが強誘電性を示すナノドメインとなることを放射光X線回折実験と透過型電子顕微鏡観察で解明。
  • 電場印加するとナノドメイン内のビスマスイオンを整列させることできることから、分極を担うナノドメインを導入し、それらを電場下で再配列させるという新しい概念による圧電材料の設計指針を提案した研究成果。

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科のキム·サンウク助教、黒岩芳弘教授、九州大学大学院工学研究院の大学院生宮内隆輝氏(研究当時)、佐藤幸生准教授、山梨大学大学院総合研究部の研究員ナム·ヒョンウク博士、藤井一郎准教授、上野慎太郎准教授、和田智志教授からなる共同研究グループは、優れた強誘電性(※1)と圧電性(※2)をもつ非鉛系圧電セラミックス材料の合成に成功しました。スマートフォンや自動車などの電子機器に用いられている圧電素子には、長年にわたり鉛を含む圧電材料が使用されてきました。今回、合成に成功した材料は鉛を含まないために、環境にやさしい圧電材料として期待できます。SPring-8(※3)での放射光X線回折実験(SR-XRD)と高分解能透過型電子顕微鏡観察(TEM)により鉛を含まなくても優れた圧電特性が得られる新しいメカニズムを解明しました。
 強誘電性を示す圧電材料の圧電特性は、結晶の単位構造由来の本質的寄与と強誘電分域(ドメイン)等由来の非本質的寄与により発現します。一般に、本質的な寄与分を除いたすべての寄与分が一括りに非本質的な寄与によるものと考えられてきました。
 チタン酸バリウム(BaTiO3:BT)とビスマスフェライト(BiFeO3:BF) を固溶させてセラミックスを合成したところ、特定化学組成で立方晶に見えるにもかかわらず、優れた強誘電性を示すことを発見しました。 また、従来の鉛を含むチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:PZT)に匹敵する圧電性を示すことも発見しました。
 電場印加下での構造解析の結果、ペロブスカイト型構造のAサイトを占めるバリウム(Ba)イオンとビスマス(Bi)イオンのうち、Biイオンが理想的な原子位置を占めるBaイオンの位置から少しずれた乱れた原子位置を占め、局所的に強誘電性を示すナノドメインを形成することを明らかにしました。 このナノドメインは、電場を印加することで電場方向に整列させることが可能です。このように、非本質的な寄与の一つとしてナノドメインからの寄与というものがあり、この寄与の分を大きくすることで鉛を含まなくても優れた特性をもつ圧電材料をデザインすることができるという新しい材料設計の指針を示しました。
 本研究成果は材料分野で著名な国際誌である「Advanced Materials」のオンライン版に2023年2月6日付で掲載されました。

セラミックスにおけるナノドメイン形成

用語解説

(※1)強誘電性
物質に外部から電場を印加しなくても、物質内で電気的にプラスとマイナスに分極したミクロな双極子が整列しており、双極子の方向を電場によって変化できる性質のこと。強誘電性をもつものは圧電性ももつ。
(※2)圧電性
物質に外部から応力を加えると、分極する性質。そのような物質は、逆に、外部から電場を印加すると変形する逆圧電性も示す。これらの現象をまとめて圧電性ということもある。圧電材料は、電気的エネルギーを機械的エネルギーに可逆的に変換できる。圧電性をもつものは、必ずしも強誘電性をもつとは限らない。
(※3)大型放射光実験施設SPring-8
播磨科学公園都市内に位置する大型放射光施設。波長の短い高エネルギーX線を用いた高精度の回折実験が可能なため、今回のようなX線の吸収の大きなビスマスイオンとX線の散乱能の低い酸素イオンを同時に含むような物質でも精密に構造解析することができる。

論文情報

タイトル:Piezoelectric actuation mechanism involving extrinsic nano-domain dynamics in lead-free piezoelectrics
掲載誌:Advanced Materials
著者:*Kim Sangwook¹、 宮内隆輝²、 佐藤幸生²、Nam Hyunwook³、藤井一郎³、上野慎太郎³、黒岩芳弘¹、和田智志³ (* 責任著者)
1 広島大学大学院先進理工系科学研究科
2 九州大学大学院工学研究院
3 山梨大学大学院総合研究部
DOI:10.1002/adma.202208717

研究に関するお問い合わせ先