Research Results 研究成果
ポイント
概要
私たちの体の表⾯や器官の表⾯は上⽪細胞と呼ばれる細胞のシートによって覆われています。上⽪細胞シートは、外界からの異物の侵⼊を防ぐバリアとして機能します。上⽪細胞に存在するタイトジャンクションと呼ばれる構造は、隣接した細胞同⼠を密着させるための構造で、バリア機能を担っています。バリア機能の破綻は、潰瘍性⼤腸炎やアトピー性⽪膚炎などの慢性炎症と呼ばれる病態の発症につながるため、タイトジャンクションの形成機構を理解し、そのバリア機能を⼈為的に強化する⽅法の開発が求められています。これまでタイトジャンクションの形成機構として、クローディンと呼ばれる細胞接着分⼦が、裏打ちタンパク質ZO と結合することによって、細胞膜上で集められてタイトジャンクションが形成されるというモデルが受け⼊れられてきました。これは、アドヘレンスジャンクションと呼ばれる異なる細胞接着装置の形成機構からの類推に基づくモデルであり、タイトジャンクションの形成機構については現在のモデルの妥当性はこれまで検証されていませんでした。
九州⼤学⼤学院理学研究院の池ノ内順⼀教授、重富健太助教らの研究グループは、以前の研究で、タイトジャンクションの領域にコレステロールが⾼度に集積していることを報告していました(Shigetomi et al. J Cell Biol 2018)。今回、池ノ内順⼀教授、重富健太助教らの研究グループは、タイトジャンクションの形成において必要なクローディンの集積において、裏打ちタンパク質ZO との結合ではなく、コレステロールに富む膜ドメインとクローディンの相互作⽤が重要であることを⾒出しました。クローディンの発現を全て消失させた細胞において、ZO タンパク質と結合しないクローディン変異体を発現させた場合でもタイトジャンクションを形成する活性を依然有する⼀⽅で、コレステロールとの相互作⽤に必要なパルミトイル化修飾を変異させたクローディンはZO タンパク質と結合する性質を保持していても、タイトジャンクションを形成できないことが明らかになりました。
これらの発⾒は、これまでのタイトジャンクションの形成機構のモデルを⼤きく書き換える発⾒であり、慢性炎症などの、タイトジャンクションのバリア機能の低下が原因となって発症する様々な疾患に対する新たな治療法を開発する上で基礎となる知⾒です。
本研究成果は、2023年2⽉16⽇(⽔)午前3時(⽇本時間)に⽶国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences USA』に掲載されました。
参考図1
本研究において、全てのクローディンの発現を消失させた細胞(Claudin null 細胞)を樹⽴しました。Claudin null 細胞ではタイトジャンクションが形成されません(A)。そのため、タイトジャンクションのバリアが失われており、細胞外からコレステロールに結合するプローブ(D4)を振りかけることによって、コレステロールの局在を調べることが可能になりました(B)。その結果、Claudin null細胞において、タイトジャンクションが形成される予定だった細胞接着部位の形質膜領域に、コレステロールがベルト状に強く集積していることが明らかになりました(C)。
参考図2
この様なコレステロールの集積した膜領域がタイトジャンクションの形成に果たす役割を明らかにするために、Claudin null 細胞に野⽣型クローディンと、右図に⽰すような⼆種類の変異体を発現しました。⼀つは、ZO タンパク質と結合できないクローディン変異体(DelYV)、もう⼀つは、パルミトイル化修飾部位である4つのシステイン残基をセリン残基に置換してコレステロールとの親和性を失わせた変異体(4S)です。
これまで、ZO タンパク質がクローディンの集積を促すと考えられてきましたが、予想外なことにDelYV 変異体は、野⽣型クローディンと同様にタイトジャンクション領域に集積し、タイトジャンクションストランドを形成します。これに対して、コレステロールとの親和性を失った4S 変異体は、ZO タンパク質と結合する活性を残しているにも関わらず、タイトジャンクションを形成することはできません。このため、本研究で明らかになった、「細胞接着部位に形成されるコレステロールに富むドメイン」が、タイトジャンクション形成に於いて中⼼的な役割を果たしていることが明らかになりました。
論文情報
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences USA
タイトル:Cholesterol-rich domain formation mediated by ZO proteins is essential for tight junction formation
著者名:Kenta Shigetomi, Yumiko Ono, Kenji Matsuzawa and Junichi Ikenouchi
D O I :10.1073/pnas.2217561120
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