Research Results 研究成果
ポイント
概要
代表的な網膜変性疾患である網膜⾊素変性(成⼈中途失明原因第3 位)や加齢⻩斑変性(同第4位)に対して、iPS 細胞(※1)による細胞移植治療や、遺伝⼦治療に関する研究が⾏われています。将来的な実⽤化が期待されますが、製造コストの⾼さ、⼿術⼿技の専⾨性、侵襲性の⾼さなどの課題も残されており、視機能(視⼒や視野)が低下した患者さんが対象となっています。しかし、⽇常診察する患者さんの多くは視機能が維持されています。特に網膜⾊素変性では有効な治療法が未だ確⽴されておらず、早期発⾒が視機能維持に結び付いていません。細胞移植治療や遺伝⼦治療だけでなく、安価で簡便な早期介⼊治療法も並⾏して開発する必要があります。
九州⼤学⼤学院医学研究院眼科学分野の園⽥康平教授、村上祐介講師、有⾺充助教(当時)、藤井裕也⼤学院⽣(当時)らの研究チームは、培養細胞を⽤いた実験で低分⼦化合物のスクリーニングを⾏い、4 種類の低分⼦化合物群を同時に投与するだけで、ミュラー細胞(網膜グリア細胞の⼀種で⾮神経細胞)が網膜視細胞へ効率的に分化することを発⾒しました。また、複数の網膜変性疾患モデルを⽤いた動物実験で、4 種類の低分⼦化合物群を同時に眼内へ注射だけで、視細胞に特徴的なタンパク質の⼀つであるロドプシンを産⽣する細胞が網膜内で増加し、変性によって失われた視機能が回復することを⽰しました。さらに、網膜内で出現したロドプシン陽性細胞の起源が、ミュラー細胞であることも確認しました。
今回の成果から、網膜変性疾患に対する安価で簡便な新規治療薬の開発が期待されます。早期治療介⼊により視機能を維持できれば、多くの網膜変性疾患患者さんにとって福⾳になると考えています。
本研究成果は、⽶国科学雑誌「PLOS ONE」オンライン版に2023年2⽉23⽇(⽊)(⽶国東部時間)に掲載されました。
用語解説
(※1) iPS 細胞 (Induced pluripotent stem cell)
⼈⼯多能性幹細胞のことで、様々な組織や臓器の細胞に分化する能⼒そしてほぼ無限に増殖する能⼒をもつ細胞である。網膜変性疾患に対する細胞治療として、iPS 細胞より分化・誘導された網膜・視細胞シートや視細胞を、網膜下へ移植する⼿法が臨床研究・臨床試験で⾏われている。
論文情報
掲載誌:PLOS ONE
タイトル:Rhodopsin-positive cell production by intravitreal injection of small molecule compounds in mouse models of retinal degeneration
著者名:Yuya Fujii, Mitsuru Arima,* Yusuke Murakami, Koh-Hei Sonoda
D O I :10.1371/journal.pone.0282174
研究に関するお問い合わせ先
九州⼤学病院 眼科 藤井 裕也 医員