Research Results 研究成果

抗菌薬に依存しない仔牛の飼養管理

腸内環境の改善と温暖化ガス発生低減の可能性 2023.04.28
研究成果Environment & Sustainability

ポイント

  • 成長促進を目的として家畜飼料に添加される抗菌薬は、薬剤耐性菌(※1)の発生につながる恐れがあります。
  • 抗菌薬無添加の代用乳給与は、仔牛の発育に悪影響を及ぼさず、むしろ仔牛の生産性や健全性に寄与する可能性が示されました。
  • 抗菌薬無添加の代用乳給与は、環境負荷低減につながる可能性もあり、「持続可能な畜産」に寄与することが期待されます。

概要

 九州大学大学院農学研究院の岡田隼之介大学院生、稲生雄大助教、髙橋秀之准教授らは、理化学研究所生命医科学研究センターの宮本浩邦客員主管研究員、大野博司チームリーダー、環境資源科学研究センターの菊地淳チームリーダー、バイオリソース研究センターの鈴木健大開発研究員、桝屋啓志室長、全国酪農業協同組合連合会の齋藤昭主席研究員らとの産学共同研究(千葉大学・千葉大発ベンチャー(株)サーマス)によって、抗菌薬に依存しない黒毛和種仔牛の飼養管理は潜在的に生産性に影響し、環境負荷低減に寄与する可能性を示しました。
 成長促進を目的として家畜飼料に添加される抗菌薬は、薬剤耐性菌の発生を助長する恐れがあるため、世界的に使用が制限されつつあります。一方、抗菌薬を使用しない飼養管理が、黒毛和種仔牛の発育や腸内環境に及ぼす影響は不明でした。
 そこで本研究では、抗菌薬無添加の代用乳、あるいは抗菌薬であるクロルテトラサイクリンを1%含有する代用乳を黒毛和種仔牛に給与し、発育成績や腸内環境に及ぼす影響を検討しました。その結果、抗菌薬の有無は発育成績に影響しませんでしたが、腸内細菌の構成割合と糞中有機酸濃度の関係性を変化させることが明らかとなりました。そこで、機械学習および因果推論(※2)による詳細な解析を行った結果、抗菌薬無添加の代用乳給与は、仔牛の生産性・健全性に寄与する有機酸(短鎖脂肪酸)である酪酸の産生に対して正の影響を与え、これには酪酸産生菌であるラクノスピラ(Lachnospiraceae)科などが関与していることが計算上、予測されました。一方、温室効果ガス(※3)であるメタンを産生する古細菌のメタノブレビバクター(Methanobrevibacter)属などが酪酸に対して負の影響を与え、同時に抗菌薬の投与も負の影響を与える計算データが算出されました。以上の点から、抗菌薬に依存しない黒毛和種仔牛の飼養管理は、仔牛の健全な発育のみならず、環境負荷の低減にも貢献する可能性が示されました。
 本成果はScientific Reportsに2023年4⽉19⽇に電子版として掲載されました。

ルーメン未発達の子牛腸内において、腸管免疫系などに影響する酪酸の産生に関与する腸内細菌に対する正の影響が、抗生物質を投与しない時には働き、抗生物質を投与した場合は、この反応に対して負の影響を与え、腸内細菌としては、メタン産生古細菌が負の影響を与えることが機械学習と因果推論の結果、予測することができました。潜在的な腸内撹乱の可能性を、計算科学を活用して予測できたことから、新しい研究手法とも言えます。本研究の成果は、家畜由来の温暖化ガスの発生が問題視されている中で、抗生物質に頼らない飼育管理によって、温暖化負荷軽減に役立ち、環境保全型の畜産に有用である可能性を示唆しています。

用語解説

(※1) 薬剤耐性菌
特定の種類の抗菌薬が効きにくくなる、または効かなくなることを、「薬剤耐性」と言い、薬剤耐性を得た菌を薬剤耐性菌と呼ぶ。
(※2) 機械学習、因果推論
機械学習:コンピュータアルゴリズムによって、データの背後にある関係やパターンを発見する方法。正解データを用いて入力と出力の間の関係を学習する「教師あり機械学習」と、正解データを利用せずデータが持つ構造や規則性を抽出する「教師なし機械学習」に分類される。本研究では、判別分析(教師あり)、アソシエーション解析(教師なし)、エネルギーランドスケープ解析(教師なし)を用いている。
因果推論:実験・観察データから得られた情報を基に、データ間の因果効果を統計的に推定していく方法。本研究では、DirectLiNGAMを用いている。
(※3) 温室効果ガス
地球における温室効果をもたらす気体であり、地球温暖化の主たる原因の1つとされている。

論文情報

掲載誌:Scientific Reports
タイトル:Estimation of silent phenotypes of calf antibiotic dysbiosis
著者名:Shunnosuke Okada, Yudai Inabu, Hirokuni Miyamoto, Kenta Suzuki, Tamotsu Kato, Atsushi Kurotani, Yutaka Taguchi, Ryoichi Fujino, Yuji Shiotsuka, Tetsuji Etoh, Naoko Tsuji, Makiko Matsuura, Arisa Tsuboi, Akira Saito, Hiroshi Masuya, Jun Kikuchi, Yuya Nagasawa, Aya Hirose, Tomohito Hayashi, Hiroshi Ohno, Hideyuki Takahashi.
DOI:10.1038/s41598-023-33444-0

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