Research Results 研究成果

典型的なミトコンドリア病の症状を軽減するハプロタイプを解明

〜発症メカニズムの解明や治療薬開発に期待〜 2023.07.20
研究成果Life & Health

ポイント

  • ミトコンドリアDNA 変異によるミトコンドリア病は⼼臓、⾻格筋、神経系などで重篤な症状を引き起こす⺟系遺伝性疾患であり、有効な治療法は確⽴していません。
  • 本研究では、ミトコンドリアtRNA の遺伝⼦内部にもつ病原性変異に加えてもう1 つの特定の⾮病原性変異を⽣まれつきもつとき、ミトコンドリア病で低下がみられるtRNA のタウリン修飾が是正され、ミトコンドリア機能が改善することを世界で初めて明らかにしました。
  • これらの成果はミトコンドリア病を発症するメカニズムの理解や、tRNA を対象とした新規治療薬の開発につながることが期待されます。

概要

 ミトコンドリア病は、細胞内でエネルギー産⽣の役割を担うミトコンドリアの機能が低下することで発症します。⼼臓、⾻格筋、神経系などの様々な症状を引き起こす遺伝性疾患で、治療法や治療薬の開発が望まれています。
 本研究では、ミトコンドリア病のMELAS(※1)で頻繁に報告されているtRNA(※2)遺伝⼦内部の病原性変異(3243A>G)(※3)をもつ際に、近くに位置するもう1 つの⾮病原性変異(3290T>C)(※4)がミトコンドリア機能の改善に貢献するという新たな仕組みを解明しました。
 九州⼤学医学系学府博⼠課程上⽥沙央理⽒、⼤学院医学研究院臨床検査医学の康東天名誉教授、保健学部⾨検査技術科学の内海健教授らの研究グループは、東京⼤学⼯学系研究科化学⽣命⼯学の鈴⽊勉教授らの研究グループと共同でサイブリッド細胞を構築し、ミトコンドリア機能とミトコンドリアtRNAの解析を⾏いました。tRNA 遺伝⼦内部に3243A>G 変異と3290T>C ハプロタイプの2 つをもつとき、tRNA のタウリン修飾(※5)が改良することでミトコンドリア機能が改善することを明らかにしました。
 今回の発⾒は、ミトコンドリア病の発症メカニズムの解明やtRNA を標的とした新規治療法の開発などに貢献することが期待されます。
 本研究成果は国際学術誌「Nucleic Acids Research」に2023年7⽉13⽇に掲載されました。

ミトコンドリアtRNA に3243A>G 変異をもつとき、tRNA のタウリン修飾が低下することでミトコンドリア機能が低下する。3243A>G 変異に加えてハプロタイプ3290T>C が存在すると、tRNA のタウリン修飾に改良がみられる。その結果、ミトコンドリア機能が改善することで臨床症状は軽度となる。

内海教授からひとこと

本研究は、当院の検査部で実施しているミトコンドリア遺伝⼦検査がきっかけで発⾒され、博⼠課程⼤学院⽣の上⽥さん(筆頭著者)が臨床検査技師として働きながら解析を進めてきました。

用語解説

(※1) MELAS
ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群の略。脳卒中様症状を中⼼に、全⾝の様々な臓器で多様な症状を呈することが特徴である。
(※2) tRNA
転移RNA(トランスファーRNA)の略で、遺伝情報を読み取り、その情報に従ってアミノ酸を運ぶ分⼦である。
(※3) 3243A>G
ミトコンドリアDNA 上の塩基番号3243 が、A(アデニン)からG(グアニン)に変異していることを⽰す。MELAS 患者の8 割以上で、この3243A>G 変異がみられる。
(※4) 3290T>C
ミトコンドリアDNA 上の塩基番号3290 が、T(チミン)からC(シトシン)に変異していることを⽰す。この変異は東南アジアに多く、遺伝的に連鎖している塩基置換の組み合わせ(ハプロタイプ)で共通してみられる。
(※5) タウリン修飾
tRNA の遺伝情報を読み取る部分に、アミノ酸であるタウリンが結合していること。タウリン修飾はtRNA の正確な遺伝情報の読み取りに関与している。

論文情報

掲載誌:Nucleic Acids Research
タイトル:Mitochondrial haplotype mutation alleviates respiratory defect of MELAS by restoring taurine modification in tRNA with 3243A>G mutation
著者名:Saori Ueda, Mikako Yagi, Ena Tomoda, Shinya Matsumoto, Yasushi Ueyanagi, Yura Do, Daiki Setoyama, Yuichi Matsushima, Asuteka Nagao, Tsutomu Suzuki, Tomomi Ide, Yusuke Mori, Noriko Oyama, Dongchon Kang, and Takeshi Uchiumi
DOI: 10.1093/nar/gkad591

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