Research Results 研究成果

エル・ニーニョが熱帯雨林の二酸化炭素吸収を決めていた

2023.10.12
研究成果Environment & Sustainability

ポイント

  • 熱帯雨林と大気との間でやり取りされる二酸化炭素と水蒸気は、地球規模の炭素収支と水循環に重大な意味を持ちます。ボルネオ熱帯雨林の二酸化炭素吸収の年々変動は、エル・ニーニョ南方振動(ENSO)に影響されていると考えられてきましたが、そのメカニズムはおろか、本当にそうなのかさえ分かっていませんでした。
  • いくつかのENSOイベント(エル・ニーニョとラ・ニーニャ)を含む10年間のフィールド観測と観測データに基づくシミュレーションモデルにより、森林単位の二酸化炭素吸収速度がラ・ニーニャ時で大きくなりエル・ニーニョ時で小さくなること、そしてそれは、光合成能力(カルビン・ベンソン回路の最大炭酸固定反応速度)がラ・ニーニャ時で大きくなりエル・ニーニョ時で小さくなることが原因であると明らかになりました。
  • 今回の知見は、東南アジアの熱帯雨林が長期的にどのように炭素を蓄積してきたのかを理解し、未来の東南アジア熱帯雨林だけでなく地球規模の炭素収支の予測に役立ちます。

概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科の熊谷朝臣教授、羽田泰彬特任研究員、高村直也大学院生は、琉球大学の松本一穂准教授、九州大学の久米朋宣教授、大阪公立大学の植山雅仁准教授と共同で、ボルネオ熱帯雨林において、いくつかのエル・ニーニョとラ・ニーニャ(注1、図1)を含む10年間のフィールド観測と観測データに基づくコンピュータシミュレーションを行い、森林単位の二酸化炭素吸収速度がラ・ニーニャ時で大きくなりエル・ニーニョ時で小さくなること、そしてそれは、光合成能力(カルビン・ベンソン回路の最大炭酸固定反応速度(注2、図1))がラ・ニーニャ時で大きくなりエル・ニーニョ時で小さくなることが原因であると突き止めました。

図1:研究成果のイメージ(エル・ニーニョとラ・ニーニャで、気象条件が変わることがボルネオ熱帯雨林の光合成を変える主要因だと思われてきましたが、Rubiscoの能力が変わることの方が遥かに大きな要因でした。)

用語解説

(注1)エル・ニーニョとラ・ニーニャ
南米沖の冷水の湧昇が平年より弱く、暖水面域が太平洋西側に広がる状況をエル・ニーニョ、この逆で、南米沖の冷水の湧昇が平年より強く、暖水面域が太平洋東側に寄っている状況をラ・ニーニャと呼ぶ。エル・ニーニョ時は、海面からの蒸発が活発な領域が太平洋中央辺りに移動するため、東南アジア域では少雨・低湿度になりやすい。これは、エル・ニーニョ時は平年に比べ、雲が少ないため太陽放射が強くなり、高温にもなりやすいことをも意味する。ラ・ニーニャ時は、蒸発が活発な領域が東南アジア島嶼域に寄るため、多雨・高湿度、また太陽放射も弱くなり低温になりやすい。エル・ニーニョとラ・ニーニャの一連の変動現象をエル・ニーニョ南方振動(ENSO)と呼ぶ。
(注2)カルビン・ベンソン回路の最大炭酸固定反応速度
カルビン・ベンソン回路においてCO2固定に関与する酵素が、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco、図1参照)である。よってカルビン・ベンソン回路の最大炭酸固定反応速度とは、Rubiscoの最大能力を意味し、対象とする植物の最大光合成能力の指標ともなる。

発表者

東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻
 熊谷 朝臣(教授)<名古屋大学宇宙地球環境研究所(客員教授)>
 羽田 泰彬(特任研究員)
 高村 直也(修士課程)
九州大学大学院農学研究院森林環境科学講座
 久米 朋宣(教授)
琉球大学農学部亜熱帯農林環境科学科
 松本 一穂(准教授)
大阪公立大学大学院農学研究科緑地環境科学専攻
 植山 雅仁(准教授)

論文情報

雑誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(オンライン版:10月10日)
題名:El Niño-Southern Oscillation forcing on carbon and water cycling in a Bornean tropical rainforest
著者:Naoya Takamura†, Yoshiaki Hata†, Kazuho Matsumoto, Tomonori Kume, Masahito Ueyama, Tomo’omi Kumagai*       †同等貢献、*責任著者
DOI:10.1073/pnas.2301596120

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