これからの学びを変える
「オープンアクセス」で知をひらく!

大学の最先端研究と聞くと、少し遠い世界の話と思われるかもしれません。しかし近年、誰でも論文を閲覧できる「オープンアクセス」によって、学びの世界が大きく広がっています。九州大学で情報・DXを統括し、附属図書館長も務める内田誠一理事に、「オープンアクセス」がもたらす皆さんの新しい学びの可能性について詳しく伺いました。
お話を聞いたのは

理事・副学長
附属図書館長
内田 誠一
システム情報科学研究院教授。画像情報学や機械学習を専門とし、数理・データサイエンス教育研究センター長を務める。現在は理事・副学長、CIOとして情報・DX分野を統括。附属図書館長も兼任。
オープンアクセスとは、学術論文や研究成果を誰でも無料で読めるようにする仕組みのこと。インターネット上で公開されるので、スマホやパソコンさえあれば、世界中の最先端の研究に触れることができます。
九州大学では、所属する研究者の研究成果物を保存・公開する「九州大学学術情報リポジトリ(QIR)」を2006年に公開。附属図書館が管理・運営しています。

インターネットを通して誰もが無料で論文を読める
―オープンアクセスとはどんなものですか?
学術論文などの研究成果を、インターネットを通じて誰でも無料で利用できるようにする仕組みのことです。パソコンやスマホなどで検索するだけで、手軽に情報にアクセスすることができます。
―オープンアクセスができる前は、どのような状況でしたか?
研究は、主に学術雑誌を通じて発表されています。そのステップは、①研究者が学術雑誌に論文を投稿する、②専門家が査読する(内容が正しいか、方法やデータが妥当かなどをチェックし、掲載する/しない、修正を求めるかを判断する)、③雑誌に掲載される、という手順を踏みます。そして、掲載された論文を読むためには雑誌の購読や論文ごとの課金が必要で、読む側の個人や大学、図書館などが出版社にお金を支払います。そのため、読む人が限られて、研究成果が社会に広がりにくいという課題がありました。
その中で、2000年頃から、研究成果をもっと社会に開いて誰でも無料で読めるようにしようというオープンアクセス運動が起こり、世界中の大学や研究機関が参加するようになりました。
オープンアクセスとは、学術論文や研究成果を誰でも無料で読めるようにする仕組みのこと。インターネット上で公開されるので、スマホやパソコンさえあれば、世界中の最先端の研究に触れることができます。
九州大学では、所属する研究者の研究成果物を保存・公開する「九州大学学術情報リポジトリ(QIR)」を2006年に公開。附属図書館が管理・運営しています。

―どのようにしてオープンアクセスにしているのですか?
論文をオープンアクセスにする方法は主に2つあります。1つは、出版社の学術雑誌ウェブサイト上で無料公開する方法です。この場合、読者が購読料を支払う代わりに、論文を書いた研究者が多額の掲載料を出版社に支払うのが一般的です。
2つ目は、大学や研究機関が運営するサイトで論文を無料公開する方法です。こういったサイトは、機関リポジトリと呼ばれており、九州大学では国内でもいち早く、2006年に九州大学学術情報リポジトリ(QIR)を公開しました。その管理・運営は附属図書館が行っています。

論文がすぐに公開されるから研究がどんどん進んでいく
お話を聞いたのは

理事・副学長/附属図書館長
内田 誠一
システム情報科学研究院教授。画像情報学や機械学習を専門とし、数理・データサイエンス教育研究センター長を務める。現在は理事・副学長、CIOとして情報・DX分野を統括。附属図書館長も兼任。
―内田理事の専門領域について教えてください。
私の専門領域は、画像情報学、人工知能(AI)・機械学習、文字画像解析です。例えば、画像から文字を認識し、意味を読み取る技術などを研究しています。人間は何かが書かれている画像を見たとき、どこに何の文字が書かれているのかを瞬時に判断し、その内容を理解できます。そんな、人間には当たり前のことでも、コンピュータにとってはどれが文字でどれが単なる線なのかを区別することが非常に困難でした。
しかし、AIの進歩により、この10年で認識能力が急激に上がりました。人間がもともと持っている知能は素晴らしく、画像情報学は人間の目をコンピュータで作ることを目指しています。
―研究者は、オープンアクセスをどう活用されていますか?
世界中の研究者は、自分の研究について多くの人に知ってほしいと願っています。
特に私の研究分野では技術が日々進化し、研究者は自分の研究成果をいち早く公開しようと競争を繰り広げています。そのために、オープンアクセスは有効です。
オープンにする論文は、出版後のものに限りません。査読前の論文や、査読が終わり出版される前の著者最終稿をオープンにすることも可能です。サイトによって、公開できる論文のルールが決まっています。 例えば、主に物理・数学分野で使われているarXiv(アーカイブ)は、世界中の大学や研究機関からの資金支援で成り立つ共同基盤です。
ここには、プレプリントと呼ばれる査読前の論文や研究データがどんどん置かれています。査読はなく、最低限のチェックを通れば、数日で公開されます。学術雑誌が査読に数か月から1年以上かかるのに比べたら、非常にスピーディです。
学術雑誌に載るのは査読を通った確実な論文である一方、arXivの論文は信頼性にばらつきがあります。それでも、公開された論文を別の研究者が引用して新たな論文を発表することで研究が進みます。
AIと組み合わせて使えば高校生でも論文を理解できる
―オープンアクセスが研究者にもたらすメリットを教えてください。
論文を公開する側・読む側の両面でメリットがあります。研究者は自分の論文が引用されることが評価の1つになるため、広く公開されることは非常に喜ばしく、企業などの目に留まれば共同研究につながる可能性もあります。また、他の人の研究を無料で読めることも自分の研究の糧になります。
こんな論文が読める!
「昆虫標本におけるラベルの作り方」
柿添翔太郎・丸山宗利(2021)
昆虫標本についている小さなラベル。
そこには、採集した場所・日時・種類など、研究に欠かせない情報が記されています。“ただの紙片”に見えて、実は学術的にとても重要な存在です。
標本の見方が変わるかも!?論文全文はコチラ
―一般市民や学生へのメリットは?
スマホがあれば、誰でも無料で最先端の研究にアクセスできます。例えば、高校生が進路を決める際、今はどんな分野でどんな研究が行われているか、どの大学の先生が自分の興味のある研究をしているかも調べられます。「人が宇宙に行くためにどんな最先端の研究が行われているか、高校生にも分かるように教えてください」と聞けば、オープンになっている論文をAIがサーチして、分かりやすく説明してくれるでしょう。オープンアクセスとAIの両方を活用すれば、誰でも世界中の論文を理解できる時代になりました。
こんな論文が読める!
「昆虫標本におけるラベルの作り方」
柿添翔太郎・丸山宗利(2021)
昆虫標本についている小さなラベル。
そこには、採集した場所・日時・種類など、研究に欠かせない情報が記されています。“ただの紙片”に見えて、実は学術的にとても重要な存在です。
標本の見方が変わるかも!?論文全文はコチラ
QIRをいち早く開設して総合知で社会変革を牽引
―九州大学はオープンアクセスをどのように位置づけていますか?
九州大学は、日本の大学の中でも早くから積極的にオープンアクセスを推進してきました。もともと2002年に制定した九州大学学術憲章で「九州大学は、開かれた大学としてその研究成果を学外に開示し、さらには活発な情報発信や人的交流、諸研究機関や産業界との連携に努めながら、学術研究の国際的拠点となることを目指す」(第4条)と定めていました。また、2021年には「総合知で社会変革を牽引する大学」を実現すべく、九州大学ビジョン2030を策定。総合知によって社会を牽引するため、知を社会に開くオープンアクセスは中核思想であると考えています。
―ではQIRはどのように始まったのでしょうか?
オープンアクセス運動が広がり、日本では国立情報学研究所が中心となって、全国の大学に基盤づくりを始めました。その初期フェーズに九州大学は手を挙げ、いくつかの大学の担当者が集まって、軽井沢で1週間合宿をしたそうです。みんな何も分からない中、システムについて講師から学んだり、学内の規則を話し合ったりしたと聞いています。そして2006年4月にQIRを公開。その後、機関リポジトリに関して先進的な取り組みを行っているオーストラリアの大学へ図書館職員を半年間派遣し、そこで得た多くの知見が今も生かされています。
―QIRのことをもっと教えてください。
QIRは、九州大学の知を世界に対して発信するオープンアクセスプラットフォームとして、九州大学の研究者による論文や研究紀要などの成果物を公開しています。
教職員・大学院生は、自身の研究成果をQIRに登録できます。日本でリポジトリを運用する約900の機関は、大半が国立情報学研究所の提供するプラットフォームを利用しています。一方、九州大学は別のプラットフォームを採用し、学内ニーズに柔軟に対応しながら、論文や関連データを公開しています。
立ち上げ当初は登録数が伸びず苦労したと聞いていますが、2026年2月には累積コンテンツ数が7万件を突破。QIRに登録された論文は、QIRのサイトはもちろん、Googleなどの一般の検索エンジンからたどり着くこともできます。年間ダウンロード数は右肩上がりで、2025年には約791万件に。その約半数は海外からで、研究結果が世界に届いていることが分かります。

九大リポジトリ「QIR」は公開20周年!
2026年4月、QIRは公開20周年という大きな節目を迎えました!これを記念して、現在「20周年特設サイト」を公開中です。みなさんにリポジトリを身近に感じてもらうための記念企画も実施しています。
特設サイトはこちら!
課題を正しく認識しつつQIRを活用してほしい
―オープンアクセスを広めていくうえでの課題と展望を聞かせてください。
課題は2つあります。1つは、オープンアクセスには専門家による十分な確認が行われていない情報も含まれているという点です。その結果、読み手が誤った情報を信じたり、AIが不正確な内容をもとに学習したりするおそれがあります。情報の量が増える一方で、その中から信頼できる情報を見極め、適切な形で社会に届けていくことは大きな課題です。今後はAIが一定の役割を担う可能性もありますが、最終的にはやはり人が内容を確認し、信頼性を支えることが欠かせないと考えています。
2つ目は、公開する論文やデータが増え続ける中で、それらをどのように保存し、将来にわたって維持していくかという問題です。データを保管するためのハードディスクや、故障に備えたコピーの保管には、設備の費用や電気代など継続的なコストがかかります。長期保存に必要な費用を誰がどのように負担していくのか、また、できる限り電力を抑えた運用をどう実現するかについては、今後考えていくべきことだと思います。
―最後に、附属図書館のことを教えてください。
九州大学附属図書館は、図書館資料を用いた研究・調査・学習を目的とする方ならどなたでもご利用いただけます。ここ中央図書館は1階から4階まで広大な吹き抜けがあり、居心地の良い多彩な空間がそろっています。収蔵能力は国内最大級の約350万冊にのぼり、歩いていると知的好奇心を大いに刺激されるでしょう。本が大好きな私としては、時間があればいつまでもいたい場所です。圧倒的な知の玄関口として、ぜひご活用ください。
附属図書館長 内田理事
おすすめの一冊
「お伽草紙」太宰 治
5歳の女の子に読んで聞かせるという設定で、『浦島さん』などおなじみのおとぎ話4編を太宰流に解釈した短編小説集。読みやすく、とてもおもしろいですよ

※本内容は「九大広報133号(令和8年7月発行)」に掲載されています。
※本内容は「九大広報133号(令和8年7月発行)」に掲載されています。