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総長式辞・挨拶等

2022年度 春季大学院入学式 (令和4年4月5日開催)総長告辞

新入生の皆さん、入学おめでとうございます。九州大学教職員一同、心からお祝い申し上げます。また、皆さんをいつも支え励まし見守ってこられたご家族、友人、関係者の方々にも心からお喜び申し上げます。COVID-19の感染防止対策のため、ライブ配信でご覧のみなさまと共に入学をお祝いしたいと思います。
今年度の大学院新入生は留学生385名を含む2,473名です。 

2019年末に始まったCOVID-19パンデミックで、人類は行動変容を迫られ、社会経済活動は打撃を受け、すべてのことが今まで通りに出来なくなっています。変異株による感染再拡大のいくつかの波を経験していますが、確固たる感染症対策は打ち出せずに2年以上が過ぎました。今後、起こる可能性がある新興感染症対策も含めた、新たな社会生活の構築に向かわなければと考えます。皆さんには、このパンデミックの大変で不自由な中、多くの制約をうけながらも大学院受験に挑戦し、本日大学院生になられた健闘を讃えます。大学も皆さんを心から歓迎します。 

新入生の皆さん、学術の領域にようこそ。
九州大学は1911年に設立され、今年で創立111年を迎えます。本学が定める「学術憲章」では、長い歴史の中で探究され結実した九大知を尊び将来に伝えること、その上ですべての学問の歴史と伝統を基に新しい展開、先進的な知的成果を生み出すことを使命としています。伝統に学び、そこにみられる知的探求を尊びつつ、現代に相応しい知の進化と発展とを指向すること、創造的かつ独創的な学術研究を重視し、学問の自由及び研究者の自律性を尊重すること、人間的叡智と科学的知識との協調に努めつつ、諸々の知の実践的価値を追求していくこと、科学が自然環境と人類の生存とに重大な影響を与えることを常に顧慮し、自らの良心と良識とに従って、社会の信頼に応え得る研究活動の遂行に努めること、を理念にうたっています。大学院は、「創造性豊かな優れた研究・開発能力を持った研究者などの養成」、「高度な専門的知識・能力を持つ高度専門職業人の養成」、「確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員の養成」及び「知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材の養成」という4つの人材養成機能を担っています。高等教育の中でもとりわけ大学院は、知の生産、価値創造を先導する高度な人材を育成する役割を、中心的に担うことが期待されるところです。 

大学院で学ぶとはどういうことだと考えていますか。もともと好奇心と探究心で目指す学問ですので、楽しいものだと考えます。学部時代に、自身で選び専攻した学びを教育的に専門的にやり遂げ、体系的な知識や技術にしてこられたことと思いますが、それを基に大学院では更に専門性を高め、新しい知見を得る研究という領域に進みます。

九州大学は昨年、文部科学大臣から「指定国立大学法人」の指定を受けました。国は、世界の有力な大学を目指す可能性を持つ国内10大学を「指定国立大学法人」に指定し、最高水準の教育研究活動を求めています。本学は指定国立大学法人の申請を契機に、大学の未来を担う若い教職員を含む全学的な規模で大学の今後の方向性、方針を議論し、それを深め「九州大学ビション2030」を策定しました。そのビジョンが目指す九州大学の姿は「総合知で社会変革を牽引する大学」です。ここでいう「総合知」とは本学が持つ人文社会科学系から自然科学系、さらにはデザイン系の「知」を組み合わせて用い、世の中の複雑な事象を一分野だけではなく、複数の分野の知識を活用して多様な視点で、課題を解決に導く新しい知識や斬新な考え方を意味します。これからの時代の困難な課題の解決策を示していくことは、大学に課された重要な役割と考え、世界が目指している持続可能な社会の実現と人々の多様な幸せ(well-being)を実現できる社会の構築に貢献していくために、九州大学も新たなステージを目指します。 

近年、博士後期課程への進学率の減少や若手研究者の研究環境が危惧され、その改善、向上が望まれています。その対策として、国は「先導的人材育成フェローシップ事業」や「次世代研究者挑戦的研究プログラム」などの支援事業を開始し、本学の博士課程の学生もこれらの支援を受けています。また本学独自の取り組みである卒業生などのご支援に基づく「九州大学基金」では、大学院生を対象とした奨学金制度も設けています。このように、本学では次世代を担う若手研究者を育てる環境整備に力を注いでいます。安心して本学での「学び」や「研究」を続け、「九州大学ビジョン2030」の実現に一緒に取り組み、より高みを目指しましょう。 

皆さんがこれから2年あるいは4年間、自分の研究課題に取り組んで考えを深め、発展させ、形にして学術業績として、それぞれの論文に仕上げられたとき、大学は学位で皆さんの業績を保証します。先ほど述べた「学術憲章」に書かれていることを念頭において、特に学問の自由と研究者の自律性を尊重すること、科学が自然環境と人間の生存とに重大な影響を与えることを常に顧慮し、自らの良心と良識とに従って、新しい自分の研究に取り組み、社会の信頼に応え得る研究活動に励んで下さい。また、皆さんには早い時期に留学を経験してほしいと思います。異文化の中の違った環境の中で、自分を見つめ、自身の力を見極め、さらに磨いて下さい。私はロスアンゼルスの南カリフォルニア大学に留学したのですが、そこで出会った恩師が私のキャリアを決めたといっても過言ではありません。1980年代の米国の研究室はその設備もシステムも、日本とは比べようもなく快適な環境で研究生活が出来ました。そして、その教授は留学期間だけではなく、その後の私の人生のメンターになり、研究室に世界各国から集っていた当時の同僚たちとは今もよい関係が続いています。留学により得られた多様な人々との人間関係とその広い豊かなつながりは研究活動のみならず、人生においても何物にも代えがたい私の宝物です。 

本日初めて伊都キャンパスに足を踏み入れた方もおられるのではと思い、少しだけキャンパスの紹介をします。ここ伊都キャンパスは美しい四季を存分に楽しめる豊かな自然に囲まれ、東西に約3キロ、南北に約2.5キロ、272ヘクタールの広大な敷地に、今から皆さんが使う最新の研究棟や椎木講堂などの様々な施設があります。中でも約350万冊の蔵書を誇る中央図書館はその建物も機能も秀逸です。その4階に「中村哲医師メモリアルアーカイブ」があります。本学が誇り、かけがえのない存在である卒業生で、特別主幹教授だった中村哲先生の「アフガンに寄り添った35年」を伝えることは、九州大学がとても大切にしていることで、先生の確固たる生き方と揺るぎない想いを伝え、繋いでいく特別な場所となっています。他の3つのキャンパス、筑紫キャンパスは、物質・環境・エネルギー分野の「先端科学融合拠点」として,大橋キャンパスは、芸術工学部があり、アジアにおける「先端デザイン拠点」として、病院キャンパスは、世界最先端の医療設備を備え、アジアにおける「生命医療科学拠点」として、それぞれ特色ある教育研究を展開しています。特に伊都キャンパスでは、持続可能な社会の実現に向けた水素などの再生可能エネルギーや、AIバスなどの新しいモビリティの社会実装に向けた実証実験を行っています。今後、これら4つのキャンパスを連携させ、異なる役割を持つ分野、それに関係する人々が全体として一つの目標を達成するために、お互いに不可欠な関係を築く「イノベーション・コモンズ」に発展させ、持続可能な社会の実現と、人々の多様な幸せを得ることが出来る社会の実現を目指し、大学も皆さんと一緒に力を尽くしたいと考えています。 

COVID-19パンデミック、ウクライナ侵攻、気候変動による自然災害などと、世界は不確定な時代になっています。特にウクライナ侵攻にはとても心が痛み、早期の解決を強く祈っています。この時代に大学院での学術の道を選んだ皆さんには、自分の研究を深めることで、九州大学の「知」を更に発展させていただきたいと思います。そして、これから探究する学問と自分自身を、今後、地球規模での世界の平和に役立つために用いることが出来るよう、社会、そして世界の有り様を見極めながら、学びと研究を進めてほしいと考えています。
最後に、これからの研究活動が充実し、実り多いものであることを祈り、その実現に向けて第一歩を踏み出した皆さんに心からエールを贈ります。
本日はおめでとうございます。 

2022年4月5日
九州大学 総長
石橋 達朗