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平成24年度 秋季学位記授与式(2012年9月24日)

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平成24年度 九州大学秋季学位記授与式告辞(2012年9月24日)

 本日、ここに平成24年度秋季学位記授与式を挙行するにあたり、学士40名、修士99名(専門職学位課程修了者なし)、博士211名(内、論文博士23名)、合計350名の皆様、この中の半数近くの178名は遠く故国を離れて九州大学で学んだ外国人留学生ですが、これら全ての皆さんに、これまでのたゆまぬ研鑽努力に対し深い敬意を表し、心からお祝い申し上げます。また、皆さんのこれまでの学習・研究を支えて下さったご家族に対しても、心からのお祝いと御礼を申し上げます。

 日本では、昨年から、秋入学が話題になっていますが、九州大学では、既に、一昨年からグローバル30という教育の国際化プログラムにより設置した国際コースにおいて、秋入学を実施しており、今年度からは、国際コースだけではなく、留学生を中心にした大学院やJTW、JLCCといった短期プログラムも一緒にした、かなり大掛かりな秋季入学式を実施することにしています。

 秋の学位記授与式については、従来から博士の学位記授与式を年に数回挙行してきましたが、学士、修士、専門職大学院、博士の学位記授与式を同時に秋季に挙行するのは、昨年からのことであります。九州大学では、今後、こうした秋の入学式及び卒業式、即ち、学位記授与式を恒例の行事として定着させようと考えています。

 皆さんが在学していた2年から6年の間、また、論文博士の皆さんが学位論文に取り組んでこられたこの数年間は、実に多難な時期でありました。

 世界では、2007年のサブプライムローン問題、それがもとになって2008年には百年に一度ともいわれる世界的金融危機に陥り、2009年には、新型インフルエンザが世界的に流行しました。

 2010年暮れに始まったアラブ諸国での反政府デモや暴動、政変など世界的な政情不安が続き、最近でも、隣国等においてデモや暴動が起こり、不安定な状況にあります。また、世界各地で洪水や寒波、地震などの自然災害が頻発しました。

 日本では、政権交代後においても短期交代を繰り返し、衆議院と参議院の間でねじれ状態や厳しい財政状況が続く中で、昨年、東日本大震災に遭遇しました。日本は現在、大きな困難に直面しており、科学技術や高等教育にも大きな影響が生じています。迅速な復旧・復興が望まれるところです。

 そうした中で、昨年、開発中のスーパーコンピュータ「京」が2回連続世界1位を獲得したことなどは、一昨年の根岸先生、鈴木先生のノーベル化学賞受賞、「はやぶさ」の生還等を含めて、過去及び現在における日本の基礎科学政策の正しさを再認識させ、今後の方向性を示唆する明るいニュースでありました。

 九州大学では、伊都キャンパスへの移転が進行しています。既に、学生教職員合わせて約1万2千人の本学最大のキャンパスとなりました。今年度から最終の第三ステージに入っています。昨年の秋には「最先端有機光エレクトロニクス(OPERA)研究棟」が完成し、今年の4月には研究者向けの木造宿泊施設である「伊都ゲストハウス」も完成しました。震災等の影響により理学系の移転が予定より少し遅くなることとなりましたが、キャンパス用地の取得については今年の7月に既に完了させ、2019年度の移転完了に向けて努力を続けているところです。

 一方で、2009年には、六本松キャンパスと田島寮が本学の手を離れました。また、この年の9月には病院の再開発も完了し、我が国最大級の最新機能を備えた大学病院が完成しました。

 昨年は、新博多駅ビルにビジネススクールが進出し、市民にとってより身近な存在となりました。本学5番目の研究所、アジア初のマス・フォア・インダストリ研究所がスタートしました。

 また、図書館や文書館などについて本格的に学び研究する大学院ライブラリーサイエンス専攻も設置され、教育研究体制が一層充実したものになりました。

 そして、九州大学は、昨年、2011年、創立百周年を迎えました。東日本大震災の甚大な被害に鑑み延期していた記念式典等の行事は今年の5月に開催しました。この九大百年に際して、これからの九大の飛躍の礎を築くために、「大学改革活性化制度」と「基幹教育院」の設置という高度な難事業を企画し、これを全学の協力と理解を得て成功させました。

 また、頂いた寄附金をもとにした「九州大学基金」を創設し、学生や若手研究者、職員の支援、教育・研究・診療などの環境整備や卒業生、同窓会との連携活動の支援等を行うことになりました。さらに、椎木正和様から大学講堂(椎木講堂)の建設費を寄附していただき、まもなく着工することとなりました。2014年に竣工する予定で、再来年から学位記授与式や入学式等の全学の大きなイベントはこの講堂で行うことになります。

 このように皆さんは、世界的に見ても、国内をみても、また、九州大学にとっても極めて多事多難で重要な時期に在学し、研鑽を積んできたわけです。

 日本は、明治以来の教育政策、産業政策によって、近代化を成し遂げ、先進国の仲間入りを果たし、戦後の卓越した政策や国民の勤勉さ、創意工夫によって、高度な科学技術力を身につけ、世界有数の経済大国に発展しました。日本におけるこの経験と実績は、アジアを始めとする多くの国にいろいろな形でいい影響を与えてきたと思います。

 最近では、中国や韓国、台湾を始めとするアジアの多くの国や地域が驚異的な勢いで発展し、グローバル社会において圧倒的な存在感を示してきています。日本を含めたアジア諸国が大局的な立場から、いたずらに緊張を煽ることは避け、世界の平和、人類の幸福を目指して連携・協力し合うことが、強く求められる時代になってきました。

 昨年や最近がそうであるように、これからも次々に大きな課題を突き付けられ、時折、未曾有といわれるような困難に直面することがあることと思います。そのような時には、皆さんが九州大学で培ってきた貴重な経験や知見を総動員して、また、日本が、これまでに経験したことや、今取り組んでいる難問への対応と解決の仕方を、ポジティブ、ネガティブ双方の例として活かして、果敢に解決に向けて挑戦していただきたい。

 これから大学院に進学する学士や修士の皆さんには、自分で定めた目標に向かって、一層の研鑽に努め、しっかりした研究の成果を出し、国際社会で存在感を示すべく努力をして欲しい。

 これは、学士、修士、博士の皆さんに共通することですが、物事を深く極めようとすると視野が狭くなりがちです。「深く掘った分だけ、高みに登り、周囲を俯瞰する」ように心がけて欲しい。

 皆さんが本日手にした学位の基準のもとになっている、例えば、大学院設置基準やそれに基づいて制定された九州大学規則において、博士については、「高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を有する」とし、修士については、「広い視野に立った精深な学識を身につけ、…」という風に記述されています。

 こうした広い修養の必要性は、既に、丁度百年前の九州大学の創設時に初代総長の山川健次郎先生が本学における最初の訓示の中で述べておられます。先生の慧眼に感服している次第ですが、創立百周年を祝った年でもありますから、その言葉を、繰り返して、本日の告辞の結びとします。

 『修養が広くなければ完全な士と云う可からず。』

平成24年9月24日
九州大学総長
有川節夫