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平成17年度 大学院学位記授与式(2006年3月27日)

歴代総長メッセージ(梶山千里元総長)一覧

平成17年度 九州大学大学院学位記授与式告辞(2006年3月27日)

 本日ここに大学院学位記授与式を挙行するに当たり、めでたくこの日を迎えられた1,697名の修士学位記と449名の博士学位記、そして63名の専門職大学院学位記を受けられる皆さん、おめでとうございます。皆さんの永年の研鑽努力に深い敬意を表し、心からお慶び申し上げます。

 また、チュラロンコン大学学長 Khunying Suchada Kiranandana(クンジン スチャダ キラナン)先生におかれましては、ご多用中にもかかわらず、大学院学位記授与式にご臨席賜り、祝辞を頂戴できますことを、九州大学を代表して厚く御礼申し上げます。

 皆さんが九州大学大学院で高度に専門的な教育・研究の指導を受けて大学院修士課程あるいは博士課程修了という輝かしい門出に到達することができましたのは、皆さん自身の不断の努力の賜であることは勿論ですが、経済面から精神面まで支えていただいたご家族の支援、人間的、社会的に独立できるように大学で教育・研究の指導をしていただいた教職員の励まし、研究室、ゼミでの先輩、友人の支えも、皆さんの大学院修了という目標達成に不可欠の要因であったことは疑いもありません。

 皆さんは大学の学部卒業後、九州大学の大学院という最高の教育・研究環境下で、高度の専門分野で将来の日本の指導者となるための訓練を受けてこられました。ただ、皆さんの受けられた大学院での教育・研究は、社会に出て直面する種々の問題に自ら進んで挑戦し、自分自身で考え、解決法を提案できる能力を身に付けるためでした。大学院の僅か数年間で学んだ自分の専門分野以外には興味がないという、視野狭窄的な人間を作る教育を、九州大学大学院で行った積りはありません。真の科学の研究・技術は計り知れないほど高度で深く、皆さんの現在の能力や専門性は、その入口にあるにすぎないといった状態です。

 近年の科学技術の進歩は、先進国に豊かな文明の享受を許すとともに、途上国との格差を広げる一方、負の遺産とも言うべき二酸化炭素の増加を始めとした多くの環境問題をもたらし、生物の生存すらも脅かす事態を招きつつあります。この点からも九州大学大学院で学んだ皆さんに求められるものは、多くの発明・発見が人類を含めた全生物にとって真の幸福をもたらすものか常に反芻を怠らない姿勢と倫理観を失わないことであります。

 平成18年度から始まる第3期科学技術基本計画には、安心・安全で質の高い生活ができる国を実現するとありますが、地球上の全ての国でこのことが可能になるよう、日本を含めた先進国が責務として努力しなくてはなりません。国の安全・安心の確保は、国の持続的発展を維持する上でもっとも基本的要因であり、テロやネットワーク攻撃の脅威、インフラの脆弱さを含む災害への対応、アジア諸国の急速な成長や世界全体の人口増加に伴う食料需給の変化などに、真剣に対策を考えておく必要があります。日本の最高学府の一つである九州大学大学院で教育を受けた皆さんがその役目を担っており、大学院教育の目的の一つが、地球上の人々の豊かで幸せな社会生活の実現です。本来、私達が生まれてくるときには地球上で平等であるべき人間として権利が、現在、地理・地域的には全く無視された状況にあります。地勢、地形、気候等地理的、自然的条件や内戦・宗教争い等の政治、経済、宗教的条件さらに風土病やエイズ、鳥インフルエンザ等の医学的条件等、多くの人々が地球上で様々な異なった条件下で暮らしています。これらの地球上での不平等の生活条件下で、多くの人々があまりにも苛酷で悲惨な状態で生活しています。このような「地球上の不平等」を平等にすることのできる手段の一つが、科学・技術の有効活用です。確かに科学・技術の進展・発展とその活用は、国、地域、企業等に利益をもたらすためにも重要ですが、私達が科学・技術の発展のため、目覚ましい成果を挙げる努力をする最終目標・目的は「地球上の人間的平等」の実現であることを、また、それが地球上に住む私達に等しく与えられた責務であることを、九州大学大学院で教育を受けた皆さんに自覚して欲しいのです。

 本学は、明治36年京都帝国大学の一分科として設置された福岡医科大学と、明治44年開設された工科大学とをもって、明治44年に九州帝国大学として設置されました。本学における博士の学位は、大正10年9月1日付けで第1号の医学博士号を授与して以来、2万2千名を超える博士を世に送り出しております。

 皆様は、九州大学において、博士前・後期課程、論文博士の方は他の研究機関、企業において、優れた研究業績を挙げられ、高い見識と秀でた能力をもつ研究者、指導者として今後社会的活動と貢献をされるわけであります。さらなる研鑽を続けられ、諸先輩方の築かれた九州大学の伝統を引き継ぐとともに、新しい時代の、新しい九州大学を担う中核的リーダーとして活躍されるよう期待しております。

 最後に、皆様が手にされる学位記の由来についてお話しいたします。

 学位記の用紙は、財務省印刷局で印刷されております。デザインは、大正から昭和20年にかけて発行された紙幣の図案を数多く手がけられた、磯部忠一(いそべただかず)氏の考案によるものです。輪郭は正倉院御物の古代紋様が描かれ、唐草模様は東大寺三月堂の本尊であります不空羂策(ふくうけんじゃく)観音像の宝冠などに表現された宝相華(ほうそうげ)唐草紋様に酷似しております。日本美術の黄金期といわれた八世紀、天平時代の美術作品から採用し、描き起こしたものと考えられます。私自身が学位記を授与されました時も、その後、総長として学位記授与式に臨み、学位記を手に取る度に、この学位記が極めて格調の高い独創的な図案であり、九州大学に相応しいものであると思っております。

 研究者としてだけでなく社会人として日本、世界を先導するリーダーとして今後のご活躍を願い、私の挨拶といたします。

平成18年3月27日
九州大学総長  梶山 千里