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星野友
教授
工学研究院 応用化学部門 分子生命工学
専門分野
生体分子工学、タンパク質科学、合成高分子、分子認識化学、コロイド界面化学、CO2分離材料
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人工抗体や人工酵素、CO2分離や光化学、すべて星野友教授が取り組んでいる研究です。
「目標は、タンパク質の様に高い機能をもつ物質を創造し、医療や環境・エネルギー問題を解決することです」と星野教授は熱く語ります。
「タンパク質は高い機能を有している一方で、製造コストが高く、不安定のため応用・利用が難しいという弱点があります。」星野教授は、タンパク質のような機能を持つ安定な物質を人工的に作ろうと、合成化学の道に進みました。
「その一例が人工抗体です」と星野教授は説明します。
抗体とは、体内に入ってきた異物に結合してこれを無毒化するタンパク質です。最近ではがん等の治療に抗体医薬が使われています。
「しかし、抗体医薬は非常に高価なので、抗体医薬による治療には莫大な費用がかかります。そこで私達は、安価な合成高分子を使った人工抗体の開発に取り組んでいます」と星野教授は語ります。
研究チームは、抗体が異物に結合する仕組みや構造を調べた上で、これを模倣した合成高分子を開発しました。
「最近は、がんや敗血症の治療に役立つ人工抗体の開発を進めています」と星野教授は続けます。
星野研究室では、工場の排気ガスや空気中から高効率にCO2を分離回収する材料の開発にも成功しています。
「私たちの体の中ではヘモグロビンというタンパク質があり、このタンパク質が体の中のCO2を効率よく分離回収して肺からこれを排出しています。私たちのCO2分離材料は、ヘモグロビンのように効率よくCO2を回収し、排気ガスや空気中のCO2を低コストに分離することができます」と説明します。
研究チームが開発するCO2分離材料は、材料1リットルに対し、その20∼30倍相当のCO2を吸収し常圧で貯留することもできます。
「この材料を使って火力発電所や工場の排気ガス、空気からCO2を回収したいという要望が日本全国から届いています」と星野教授は指摘します。
この技術の社会実装を目指し、2020年には株式会社日本炭素循環ラボ(株式会社JCCL)を設立。すでに多くの顧客と共同で製品や事業を開発しています。成果の一つが、農学研究院の岡安崇史教授と共同で開発したビニールハウス農業用のCO2供給システムです。この装置は、ビニールハウスの暖房機から排出されるCO2を回収、精製し、温室に送り込むことで、農作物の光合成を促進します。「CO2は植物が光合成をして成長する時に最も重要な栄養源なのです。私達の装置でCO2を供給することで植物は短期間で大量に糖を光合成し、トマトやいちごは甘く、生産量が向上することがわかっています。CO2の排出量の削減にもなり一石二鳥です。」
温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの達成は、決して簡単なことではありません。しかし、星野教授は現実的な目標であると信じており、九州大学こそ、それが可能な場であると考えています。
星野教授の研究室では、植物の光合成の様に光を使ってCO2を還元し、有用物質に変換する研究も行っています。
「この取り組みは、金属錯体/触媒化学の専門家である嶌越恒先生と共同で推進しています」と星野教授は言います。「植物の光合成では、金属錯体を内包した沢山の酵素が活躍しています。これらの機能を研究し、模倣することで光を使ってCO2を有用物質に還元する人工酵素を実現することができます。」
光合成では光を効率よく集めて変換し、余すことなく使うことが求められます。植物体内では多くの色素分子が精密に整列し組織化することでこれを実現しています。「私達も光を自在に扱えるようにならなくてはいけません。我々のグループの小野利和准教授は、色素を自在に整列する技術を開発し、光を様々な形に変換することに成功しています」と星野教授は説明します。
「人類のタンパク質の構造や機能に関する理解はまだ完全ではありません。しかし、世界中の研究者が研究し、日進月歩で理解が進んでいます。タンパク質の構造と機能を誰よりも深く理解し、物質合成・組織化技術を研ぎ澄ましてこれを模倣することで、医療や環境・エネルギー問題を解決する高性能な人工抗体・人工酵素を開発することができます」と星野教授は締めくくります。
※日本炭素循環ラボ(JCCL)の取り組みは本学のWeb特集サイトをご覧ください。