Research Results 研究成果

理工系分野のジェンダー平等達成度を国際調査で視覚的に明らかに

~ジェンダーバイアスのない組織作りに役立つことを期待~
先導物質化学研究所
玉田 薫 教授
2024.10.22
研究成果Humanities & Social Sciences

ポイント

  • これまで社会におけるジェンダー平等※1は、女性比率だけで議論されることが多かったが、今回、大学の各部局(学部・学科)におけるジェンダー平等な学術的風土の達成度を、論文業績の男女比較を通じて定量的に評価する方法を考案した。
  • これにより世界の主要大学の各部局について評価した結果、米国/EUの大学は日本の大学に比べてはるかにジェンダー平等が進んでいることが明らかになった。
  • 大学の部局ごとのジェンダー平等達成度を定量的に評価できるこの手法は、国の違いを超えてジェンダーバイアス※2のない組織作りに役立つと期待される。

概要

 大学におけるジェンダー平等は、女性教員や女性学生の割合などで評価されるのが一般的です。しかし、女性の割合が増えるのを待つだけで、日本の大学にジェンダーバイアスのない学術的風土が醸成されるとは限りません。特にSTEM分野※3におけるジェンダーギャップ※4問題は、科学技術イノベーションにおける多様性確保、ジェンダー視点の重要性が要求されながらも、遅々として進んでおらず、次世代への影響が危惧されます。
 今回、九州大学先導物質化学研究所の玉田薫主幹教授と東京工業大学(2024年10月1日より東京科学大学)は、文部科学省ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(調査分析)事業において、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)と連携し、大学の各部局(学部・学科)におけるジェンダー平等の達成度を、論文業績の男女比較を通じて定量的に評価する方法を考案しました。そして、これを女性教員割合、女性教員絶対数とともにバブルチャートにまとめたものを「学術的男女平等指標(Academic Gender Equity Index: Academic_GEI))と名付け、日本/米国/EUの代表的な大学のSTEM関連部局の実態を調査しました。
 その結果、当初の予想通り、米国/EUの大学は日本の大学に比べてはるかにジェンダー平等な研究環境が整っていることがデータで明らかになりました。さらに興味深いことに、女性教員の割合(X 軸)と論文業績(Y 軸)の間には明確な相関関係は見られず、むしろ部局における女性教員の絶対数が女性教員の論文業績に大きな影響を与えることがわかりました。すなわち女性間のネットワーク構築が女性の活躍促進に重要であることが示唆されました。
 ジェンダー問題解決には、部局(研究分野)の個性に合わせたきめ細やかな対応が必要です。大学の部局ごとのジェンダー平等達成度を定量的に評価できるこの手法は、国の違いを超えて、ジェンダーバイアスのない組織作りに役立つと期待されます。
 本事業の成果は、2024年10月18日に、Elsevierの査読付き国際ジャーナル「International Journal of Educational Research Open (IJEDRO)」にて公開されます。

研究者からひとこと

理工系女性研究者として、大学における男女平等の問題を定量データで議論できないかと考えたのが研究のきっかけです。他国の状況と比べることで、日本の女性研究者が置かれている状況の特殊性がより明確になったと思います。女性が伸び伸びと活躍できる環境を日本の大学も早急に整えていかなければならないと改めて思いました。

 Academic_GEIによる日米大学理工系・生命系部局の比較
バブルチャートの横軸は女性教員比率、縦軸は女性教員の論文業績の相対値(1.0の場合、論文業績に男女差がない)、バブルサイズは部局の女性絶対数である。UCSDでは女性教員比率が日本の2倍以上であるだけではなく、論文業績に男女差が見られない。
青:九州大学理工系部局、緑:九州大学九大生命系部局、黄:東京工業大学部局、赤:UCSD理工+生命科学系部局。

用語解説

※1 ジェンダー平等(Gender Equality あるいはGender Equity)
SDGsの目標5であり、「すべての女性(女子)が能力を最大限に発揮できる社会を作る」「すべての人が性別に関わらず平等に機会が与えられる社会を作る」こと。日本の男女共同参画はGender Equalityと訳される場合が多い。 

※2 ジェンダーバイアス(Gender Bias)
男女の役割について固定観念を持ち、性差に対して差別的な考えや偏見を持つこと。これが採用・昇任人事において男女差別を生み、男女間に社会的・経済的格差を生む原因になると言われている。 

※3 STEM分野
Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の理工系分野を総称する指す言葉。これにArt(芸術)を足してSTEAM、あるいはMedicine(医学)を足してSTEMMとして使われることもある。 

※4 ジェンダーギャップ(Gender Gap)
男女間の格差のこと。世界経済フォーラムが発表する「ジェンダーギャップ指数」が有名である。これは、政治・経済・教育・健康における各国の男女の格差を数値化したもの。  

掲載誌:International Journal of Educational Research Open (IJEDRO), Elsevier
タイトル:Evaluation of the Gender-Neutral Academic Climate on Campus for Women Faculty in STEM Fields
著者名:Kaoru Tamada*, Eriko Jotaki, Naoko Tsukamoto, Shoko Sagara, Junko N. Kondo, Masao Mori, Miwako Waga and Sandra Brown
DOI:10.1016/j.ijedro.2024.100390

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