Research Results 研究成果

近年の黒潮続流の大蛇行に伴う海洋熱波が豪雨の発生をもたらしたことを解明

理学研究院
川村 隆一 教授
2025.02.25
研究成果Environment & Sustainability

ポイント

  • 2022年の秋ごろから本州のすぐ東の海上において黒潮続流※1が北へ大きく蛇行することで、海面水温が顕著に高い状態『海洋熱波※2』が発生しています。海面水温の上昇は海から大気への熱や水蒸気の供給を増加させることで降水へ影響することが考えられますが、黒潮続流の大蛇行に伴う海洋熱波のそのような影響についてはわかっていませんでした。
  • 本研究では、雲解像モデルを用いた数値実験を通じて、黒潮続流の大蛇行に伴う海洋熱波が2023年9月に千葉県で発生した記録的な豪雨の降水量の約70%に寄与したことを示しました。
  • さらに、数値実験のデータを詳細に分析することで、海洋熱波が、大気の暖湿化や千葉県沿岸付近における前線※3の形成や位置に作用することで、豪雨の発生に関与したことを明らかにしました。

概要

立正大学データサイエンス学部・平田英隆准教授、九州大学大学院理学研究院・川村隆一教授、海洋研究開発機構アプリケーションラボ・野中正見グループリーダーらの研究グループは、近年、日本の東方海上において黒潮続流の大蛇行に伴って生じている海面水温の異常高温『海洋熱波』が、2023年9月8日に千葉県東部で発生した記録的な豪雨の発生に大きく寄与したことやそれに関わるメカニズムを明らかにしました。本研究成果は、2025年2月13日に国際学術誌「Scientific Reports」 に掲載されました。

本研究の成果は、日本の東方海上における海洋熱波が豪雨の発生リスクを高めていることを示唆しています。また、日本周辺の海流とそれに伴う海水温の変動を適切に推定・予測することが、豪雨等の極端気象現象の予測や理解において極めて重要であることを意味します。

雲解像モデルによる豪雨の再現実験の結果の可視化。白~灰色の領域は雲・降水域の3次元分布。陰影は海面水温、矢印は地上付近の水平風を示す。可視化にはMet.3D (https://met3d.wavestoweather.de/met-3d.html)を使用した。

用語解説

(※1)黒潮続流
黒潮が日本の沿岸から離れた後の黒潮から続く海流。

(※2)海洋熱波
海面水温が異常に高い状態が数日以上続く現象。海洋生態系や気象・気候などへの    影響が懸念されている。

(※3)前線
熱的に異なる性質を持った空気の境界。前線付近では上昇流が生じるために、水蒸気の    凝結や大気の不安定の解消が起きやすく、しばしば豪雨の発生をもたらす。

論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文名:Effects of a marine heatwave associated with the Kuroshio Extension large meander on extreme precipitation in September 2023
著者:Hidetaka Hirata, Ryuichi Kawamura, and Masami Nonaka
DOI:10.1038/s41598-025-88294-9