Research Results 研究成果

これまで分解しないとされていた市販の釣り糸が海洋で生分解することを発見

――ゴーストギア(漁業系プラスチックごみ)問題解決の決定打に――
ネガティブエミッションテクノロジー研究センター
高原 淳 学術研究員
2025.05.15
研究成果MaterialsEnvironment & Sustainability

ポイント

  • これまで高分子分野や水産業分野で、海洋では分解しないと共通認識されていた市販のナイロン6とナイロン6,6の共重合体の釣り糸が、共重合体の比率がある範囲に入る場合には、代表的な海洋生分解性ポリマーのセルロースと同等レベルで生分解することを世界で初めて明らかにした。
  • 現在市販されているほとんどの釣り糸は生分解性でないため、切れた場合に水鳥やウミガメなどに絡まることによる生態系への悪影響や、マイクロプラスチック化することによる海洋汚染が世界的な問題になっている。
  • 今回の発見は、釣り糸による海洋汚染拡大の歯止めとなるのみならず、漁網などの漁業系プラスチックに展開することにより、ゴーストギア問題の包括的解決にも貢献できる。

概要

不法投棄された漁網に絡まってしまったウミガメ(引用:Wikipedia)

東京大学の伊藤耕三特別教授、安藤翔太特任助教、九州大学の高原淳学術研究員、一般財団法人化学物質評価研究機構の菊地貴子主管研究員、長岡技術科学大学の笠井大輔准教授、愛媛大学の日向博文教授らによる研究グループは、海洋では分解しないとこれまで共通認識されていた市販の釣り糸の中に、代表的な海洋生分解性ポリマーのセルロースと同等レベルで生分解する釣り糸が複数存在することを発見しました。具体的には、市販されているナイロン6とナイロン6,6の共重合体(注1)の釣り糸の中で、共重合体の比率がある範囲に入る市販の釣り糸が、海洋中で生分解性ポリマーの標準物質であるセルロースと同程度の生分解性を示すことを世界で初めて明らかにしました。これは、ナイロンを非生分解性ポリマーとして扱ってきた教科書の記述や、高分子分野・水産業分野の共通認識が間違っていることを示し、これまでの常識を完全に覆すものです。この発見を契機として生分解可能な釣り糸が世界中で盛んに利用されるだけでなく、漁網等の漁業系プラスチックの材料開発に展開が可能となることから、ゴーストギア問題(注2)の包括的解決が期待されます。

本研究成果は、2025年5月19日からの第74回高分子学会年次大会にて発表されます。

用語解説

(注1)  共重合体
2種類以上の異なる単量体(モノマー)が結合してできた高分子(ポリマー)のこと。1種類の単量体(モノマー)が結合してできた高分子(ポリマー)はホモポリマーと呼ばれている。

(注2)  ゴーストギア問題
ゴーストギア問題とは、海に捨てられたり、失われたりした漁具(網、釣り糸、ロープ、カゴなど)が、環境や生態系に悪影響を及ぼす問題のこと。「ゴーストギア(Ghost Gear)」とは、「幽霊漁具」という意味で、人の管理を離れた漁具が海中を漂い続ける様子から名付けられた。
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4452.html

学会情報

学会名:第74回高分子学会年次大会(2025年5月19日~)
題 名:難生分解性ポリアミドの共重合比率による生分解性発現
発表者名:安藤翔太、正木崇士、笠井大輔、上野瑛理、儀武菜美子、アンインジュン、菊地貴子、米村まいな、加藤太一郎、日向博文、高原淳、伊藤耕三