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Research Results 研究成果

新型コロナワクチンの継続的な接種を優先すべきは誰か?

~抗体応答不良の集団特定で接種戦略を最適化、感染拡大・重症化抑制へ~
マス・フォア・インダストリ研究所
岩見 真吾 客員教授
2025.09.18
研究成果Life & HealthMath & Data

ポイント

  • 2,526名のワクチン接種者から成る福島ワクチンコホートの縦断データを解析し、COVID-19 mRNAワクチン注1)の追加接種注2)後の血中IgG(S)抗体価注3)動態に、「耐久型」「脆弱型」「急速低下型」という三つの特徴的な集団が存在することを明らかにした。
  • 「脆弱型」「急速低下型」の集団に分類される人は早期にブレイクスルー感染注4)を経験していた。
  • ブレイクスルー感染を経験した人は、経験しなかった人に比べて、(感染前の)追加接種後100日以内の血中IgA(S)抗体価注5)が有意に低かった。

概要

名古屋大学大学院理学研究科の岩見 真吾 教授(九州大学マス・フォア・インダストリ研究所 客員教授)の研究グループは、福島県立医科大学の坪倉 正治 教授らとの共同研究により、COVID-19 mRNAワクチンの初回2回接種から1回目の追加接種後における血中IgG(S)抗体価の変動を解析し、「耐久型」「脆弱型」「急速低下型」という三つの特徴的な抗体応答パターンが存在することを明らかにしました。さらに、脆弱型と急速低下型の人では、他の型に比べて早期にブレイクスルー感染を経験していることも判明しました。また、ブレイクスルー感染を経験した人では、追加接種後100日以内における血中IgA(S)抗体価が、感染せずに済んだ人に比べて有意に低いことが示されました。

現在流行中の新型コロナウイルス変異株や、将来出現し得る新たな変異株への備えと、社会生活の維持を両立させるためには、、新型コロナワクチンの継続的な接種が不可欠です。限られた医療資源を有効に活用し、より効果的なワクチン接種体制を構築するためには、戦略の最適化が重要となります。

本研究成果により、ブレイクスルー感染のリスクが高い集団を特定し、継続的な接種の優先対象とすべき人を明らかにしました。また、低いIgA(S)抗体価がブレイクスルー感染リスクの高い人を予測するバイオマーカーとして使用できる可能性も示しました。今後、こうした高リスク集団を早期に特定できるようになれば、より適切なタイミングでの継続的な接種が可能となり、感染リスクの低減につながると期待されます。

なお、本研究で用いた解析手法は、さまざまな種類のワクチン接種に応用が可能であり、柔軟性の高さから、将来のパンデミックやポストコロナ時代における個人および集団レベルの免疫強化政策の立案に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2025年9月18日午前3時(日本時間)付で国際学術雑誌『Science Translational Medicine』に掲載されました。

用語解説

注1)COVID-19 mRNAワクチン
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して用いられた、ウイルスの設計図の一部に由来するmRNAを投与する新しいタイプのワクチン。新型コロナワクチンの一つ。

注2)追加接種
ワクチンの初回接種で得られた免疫を、追加の接種によって再び強化すること。時間の経過とともに低下するワクチンの効果を高め、症状を伴う感染(発症)予防や重症化予防の効果を維持・向上させる。

注3)血中IgG(S)抗体価
血液中に含まれる、ウイルス表面のスパイクタンパク質(S)に結合し、ウイルスの働きを抑えるIgG抗体の量を示す値。IgG抗体はワクチン接種や感染によって作られ、この数値が高いほど、体内にウイルスに対する免疫が備わっていると考えられる。

注4)ブレイクスルー感染
ワクチン接種を完了した人が、ワクチンによって誘導された免疫の壁を越えて、ワクチンで免疫した同じ病原体(ウイルス)に感染すること。ワクチン接種を完了しても、感染そのものを抑制する免疫の不足や時間の経過による減少のために、感染する場合がある。一方で、新型コロナワクチン接種により、ブレイクスルー感染を起こしても発症や重症化するリスクが下がることが知られている。

注5)血中IgA(S)抗体価
主に鼻や喉などの粘膜で働くIgA抗体の血液中での量を示す値。粘膜のIgA(S)抗体はウイルスの体内への侵入を防ぐ初期防御の役割を担っており、血中IgA(S)抗体価は粘膜IgA(S)抗体価のバイオマーカーとして感染予防効果との関連が注目されている指標の一つ。

論文情報

雑誌名:Science Translational Medicine
論文タイトル:Longitudinal antibody titers measured after COVID-19 mRNA vaccination can identify individuals at risk for subsequent infection
著者:
Hyeongki Park:釜山大学医生命融合工学部データサイエンス専攻 助教、兼:名古屋大学大学院理学研究科 招へい教員
中村 直俊:横浜市立大学大学院データサイエンス研究科 教授、兼:名古屋大学大学院理学研究科 招へい教員
宮本 翔:国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 感染病理部主任研究員、兼:千葉大学大学院医学研究院 感染病態学 特任講師
佐藤 好隆:名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学専攻 微生物・免疫学講座 ウイルス学 准教授
Kwang Su Kim:釜慶大学科学システムシミュレーション学科 助教、兼:名古屋大学大学院理学研究科 招へい教員、釜山大学数学科
北川 耕咲:名古屋大学大学院理学研究科 特任助教
小橋 友理江:福島県立医科大学医学部 助教、兼:ひらた中央病院 総合内科
谷 悠太:医療ガバナンス研究所
島津 勇三:福島県立医科大学医学部 放射線健康管理学講座
趙 天辰:福島県立医科大学医学部 放射線健康管理学講座
西川 佳孝:京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学 准教授、兼:ひらた中央病院 総合内科
小俣 文弥:ひらた中央病院 総合内科
川島 萌:福島県立医科大学医学部 放射線健康管理学講座
阿部 暁樹:福島県立医科大学医学部 放射線健康管理学講座
斉藤 良佳:医療ガバナンス研究所
野中 沙織:福島県立医科大学医学部 放射線健康管理学講座
瀧田 盛仁:福島県立医科大学医学部 放射線健康管理学講座
山本 知佳:福島県立医科大学医学部 放射線健康管理学講座
森岡 悠:名古屋大学医学部附属病院 中央感染制御部 講師
加藤 勝洋:名古屋大学医学部附属病院 循環器内科 助教
佐合 健:名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学専攻 微生物・免疫学講座 ウイルス学 大学院生(当時)
八木 哲也:名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学専攻 生体管理医学 臨床感染統御学 教授
川村 猛:東京大学アイソトープ総合センター 准教授、兼:東京大学先端科  学技術研究センター
杉山 暁:東京大学アイソトープ総合センター 助教
中山 綾:東京大学アイソトープ総合センター 特任研究員
金子 雄大:東京大学先端科学技術研究センター、兼:株式会社医学生物学研究所
横川 理沙:北海道大学大学院先端生命科学研究院
合原 一幸:東京大学国際高等研究所 ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)エグゼクティブ・ディレクター、主任研究者、東京大学特別教授
児玉 龍彦:東京大学先端科学技術研究センター 名誉教授
上山 晟史:北海道大学医学研究院 病理系部門 微生物学免疫学分野
田村 友和:九州大学大学院医学研究院 ウイルス学分野 准教授
福原 崇介:九州大学大学院医学研究院 ウイルス学分野 教授、兼:北海道大学医学研究院 病理系部門 微生物学免疫学分野、北海道大学総合イノベーション創発機構 ワクチン研究開発拠点、 大阪大学 微生物病研究所 ウイルス制御学グループ
渋谷 健司:東京財団政策研究所 研究主幹、兼:福島県相馬市 新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター センター長
鈴木 忠樹:国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 感染病理部 部長、兼:千葉大学大学院医学研究院 感染病態学 教授
岩見 真吾:名古屋大学大学院理学研究科 教授、兼:京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)連携研究者、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所 客員教授、理化学研究所数理創造研究センター 客員研究員、東京大学国際高等研究所 ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)連携研究者
坪倉 正治:福島県立医科大学医学部 放射線健康管理学講座 主任教授、兼:ひらた中央病院 総合内科、南相馬市立総合病院、医療ガバナンス研究所
DOI:10.1126/scitranslmed.adv4214

お問い合わせ先

マス・フォア・インダストリ研究所 岩見真吾 客員教授