Research Results 研究成果
ポイント
コンタクチン関連蛋白質1(contactin-associated protein 1、Caspr1)抗体陽性自己免疫性ノドパチーは手足の筋力低下やしびれ感をきたしますが、非常にまれな疾患であり、症状の特徴は十分にわかっていません。
概要
近年、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy、CIDP)(※1)の患者さんの一部で末梢神経のランビエ傍絞輪部(図1)に存在するタンパク質に対する自己抗体が陽性になることが明らかとなり、自己免疫性ノドパチーと命名されました。コンタクチン関連蛋白質1(contactin-associated protein 1、Caspr1)抗体は自己免疫性ノドパチーの患者さんで検出される自己抗体の一つですが、世界的にも報告数が少なく、臨床像は十分に分かっていませんでした。また、抗体測定は一部の研究機関でしか行われていないため、疾患も十分に認知されていません。
九州大学大学院医学研究院神経内科学分野の磯部紀子教授、九州大学病院脳神経内科の緒方英紀助教、医学系学府博士課程の田代匠らの研究グループは、全国の複数の医療機関と共同で研究を行い、世界最大規模のCaspr1抗体陽性自己免疫性ノドパチーの患者さんを同定しました。詳細な臨床情報の解析により、特有の臨床像や検査所見、免疫治療への反応性が見られることを明らかにしました。今回の発見により、疾患の周知や早期診断、適切な治療介入に繋がることが期待されます。
本研究成果は、米国神経学会の学会誌「Neurology」に2025年10月7日(火)午前6時(日本時間)に掲載されました。
研究チームからひとこと
今回の多施設共同研究の成果により、Caspr1抗体陽性自己免疫性ノドパチーの疾患概念の確立が大きく前進しました。今後はさらに発症メカニズムの解明を目指します。
図1 末梢神経の構造と本疾患の患者像:末梢神経では長い軸索とよばれる線維が髄鞘と呼ばれる鞘(さや)に巻かれて守られています。この髄鞘と髄鞘の間にはランビエ絞輪とよばれるくびれがあり、髄鞘が絶縁体としてはたらくことで電気的活動を効率よく伝えることができます。ランビエ絞輪のすぐ隣にある髄鞘の始まりの部分をランビエ傍絞輪部と呼び、髄鞘と軸索がしっかりと接着することで構造が安定化します。ランビエ傍絞輪部に存在するCaspr1に対する自己抗体が産生され標的に結合すると、電気的活動を正常に伝えることができなくなり、手足の筋力低下やしびれ感をきたします。本疾患は、高齢発症で男性に多く、歩行障害や感覚性失調(歩くときにふらつく、目を閉じるとまっすぐ立っていられない)、手のふるえも高頻度に見られます。
用語解説
(※1)CIDP
免疫機能の異常により末梢神経の髄鞘が障害され、進行性または再発性に手足の筋力低下やしびれ感をきたす希少疾患。
論文情報
掲載誌:Neurology
タイトル:Clinical, Electrophysiologic, and Pathologic Features of Anti-Contactin-Associated Protein 1 Autoimmune Nodopathy
著者名:Takumi Tashiro, Hidenori Ogata, Yuki Fukami, Guzailiayi Maimaitijiang, Hitoshi Hayashida, Kazushi Deguchi, Yasuhiro Hamada, Yuko Ito, Masahiro Kanai, Atsuko Katsumoto, Ryota Kishi, Michiaki Koga, Takashi Kurokawa, Akira Machida, Masahito Mihara, Noriyuki Miyaue, Yasuko Mori, Ichiro Naba, Yoshiharu Nakae, Akiko Nakamura, Hirotake Nishimura, Tomoko Okamoto, Etsuji Saji, Ryota Satake, Kenji Sekiguchi, Masahiro Shibuya, Manabu Shimoda, Takayoshi Shimohata, Yuki Takeda, Kenta Taneda, Toshiyuki Tezuka, Masaya Togo, Takuya Uehara, Keiji Yamaguchi, Nobuaki Yoshikura, Ryo Yamasaki, Jun-ichi Kira, Haruki Koike, Masahisa Katsuno, Noriko Isobe.
DOI:10.1212/WNL.0000000000214143
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